Short Story #02 (ページ33)

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フロアに響くヒールの音はイヤホンをしてても聞こえた。
それは近くの席で止まり、後を追うような足音。

「ありえない。」

「だから、無理だってば。」

「なんでよ！付き合ってほしいだけ！いくら使ったと思ってんの！」

「ハルカだって仕事だから。」

「本気になったらどうしたらいいわけ？」

「あのさぁ。」

白いパンツに黒いノースリーブニット。
20代後半かなーってぐらいのお姉さんと若そうな金髪の人。
ホストらしく、なんか凄い揉めてる。

注文もそうそうにお姉さんの文句は止まらない。
“いくら使った”とか“誰が店支えてやってんのよ”と面倒くさそうな言葉。
“でも好きなの”とか“好きになってもいいって言ったのはハルカでしょ！”って泣きそうな言葉。

情緒は劇的に不安定、うちのWi-Fi環境みたい。

まぁまぁ暑いのに女の人はホットコーヒー、金髪の人はオレンジジュース。
修羅場になんか面白くなって、イヤホンをしたまま音をミュートさせる。

「ハルカはナンバーワンだから仕方ない。」

「わかってるけどさ、ハルカにお金一番落としてるでしょ？
　そう思わない？安井くんならわかってるでしょ？」

「だからってあいつの家に行くのはルール違反だろ。」

「っていうか、なんでハルカが顔見せないわけ？」

「危ないからだろ、いい加減にしてもらわないと警察に通報になるよ。」

「いや。」

「穏便に済ませる為に、こうやって話聞いてもらおうと思ってるんでしょ？
　うちがオープンした頃からのお客さんだからさ。」

金髪の人はどうも“やすい”っていうホストクラブの店長さんらしい。
童顔だけど、言葉の使い方も女性の扱いも大人だ。
きぃーきぃー言ってる女性を、あくまで冷静に叱咤してるような。

「どうしたらいいの？」

「お客さんとしては嬉しいって言ってたよ。
　でも家とかプライベートはハルカにもあるからそれは辞めてって。」

これ一生終わんないラリーだなって思いながら、イヤホンの音量をあげる。

新商品の中にある赤いリップ、彼女の唇の色と同じだ。
資料の女性と隣の彼女は全然違うけど、口元は至極セクシーだなぁ。

「もういい！」

そう言った女性が立ち上がったからちらっと横に視線をずらす。
ありえない光景、マグカップを右手に持ち右に振り抜きそうだった。

このままだと私コーヒーまみれだなって思って、目をつぶる。