Short Story #02 (ページ12)

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「いい提案だなって言ってくれてたのに、全部嘘だったのかな。」

「うーん。」

「ごめん。こんなこと言うつもりなかったのに。」

「いいよ、話して。」

「この先もそういうのがあるのかなって思ったら全然思いつかなくて。」

「企画が？」

「でもね？岸はどんどんいいアイデア出してて。」

「Aは全然ダメなの？」

「私ダメだよね。
　クライアントで仕事選んでるみたい。」

もぞもぞと俺の太もも当たりの乗っかるまあるい頭。
表情まではわからないけれど、自己嫌悪に陥ってるみたい。
小さい体がより小さく見えて本をベッドサイドに置いて頭をなでる。

「そういう時は…真っ白にしてみるといい。」

「真っ白？」

「白いキャンバスにたくさん色を重ねる。
　たくさんアイデアは浮かんだ分だけ出した方がいいんだ。」

「それが会社のためになるの？」

「Aは会社のために働く。
　でも会社は働く人たちを守るのも仕事なんだから。」

「出来レースみたいなことに時間掛けてもいいのかなぁ。」

「形式上、そういうことはこれからもあると思う。
　でもそんなプレゼンで勝ち残れたらもっとすごいと思わない？」

「そんなことあるのかな…。」

「あるよ、この世界に絶対なんてないんだから。」

手を止めると、俺を見上げるAの顔。
少しだけ吹っ切れたみたいに笑顔になる。

「マキアートってあるでしょ？」

「珈琲の？」

「そう、あれってどういう意味か知ってる？」

「ううん。」

「白いミルクにエスプレッソで染みをつけるって意味があるんだ。」

「へーえ。」

「白いものに何かが混ざると、ひとつ生まれるんだよ。」

「そっか。」

「心の中にあるものは言葉にして形にした方がいい。
　その方がきっとAも楽になるんじゃないかな。」

「これからはそうしてみる。」

「うん。」

太ももにある小さな頭を手で支えて、スライドするように隣に潜り込む。
珍しく俺の肩辺りに近づくAをぎゅっと抱きしめる。

「ほっくんは…お砂糖だね。」

「なにそれ。」

「ミルクに入れても色が変化しない。」

「うん。」

「でも甘くなる、優しい味になる。」

「…それで？」

「自分で居られるのに、優しい気持ちになるの。」

「俺と居ると？」

「そう…。」

一生懸命開けてた瞳が睡魔に負けて閉じた。
ベッドサイドの小さな灯りを消して、腕の中の彼女をを見る。

たまにはこういう夜も悪くない。