きみには負けるよ ページ5
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ああ、この人には適わない。俺は葵から絶対に離れられないと思ったのは、あのときが初めてで、きっとあれが最後。それからはずっと、虜。
プロ野球選手という仕事にプライドを持っているし、毎日努力し勝利を手にすることは喜びである。ただ、特殊な仕事であることは理解しているし、彼女であるひとはきっと、たくさんの苦労や心配をかけると思う。
プロ入団頃から付き合い始めた葵は、俺をサポートするために努力をしてくれている。食事面はもちろん、自分だって働いているのに、俺に負担をかけないように家事全般をほとんどやってくれる。野球に専念できるのは、葵のおかげであって、頑固な俺を程よく叱りながらも、見守ってくれる心強い味方だ。
ただ、チームが強くなり、俺自身も一軍帯同し試合に出場させてもらうようになると、様々なしがらみも増える訳で。同級生と名乗る、ほとんど知らないひとから突然連絡が来たり、擦り寄ってくる女がいることも確か。
連絡先を教えてください、と見つめてきた球団職員のかわいい女の子がいたが、彼女がいるのでと断ったことがあった。その場では困ったような笑顔で、そっかあ、なんて呟いていたけれど。断られたというプライドが傷付いたのだろう、怒りの矛先が葵に向いた。
彼女がどのようにして、俺の彼女が葵だと調べたのは知らない。ただ、球場で彼女に再開したとき。
「葵さん、綺麗な方ですね?」
「…え?」
「でも、私の方がかわいいと思います」
「…何言うてんの?」
「私の方が、西川さんと釣り合うと思うんです。だから、」
「…だから?」
「私、本気なんです。覚悟、しておいて下さいね?」
そう不敵な笑みを浮かべて、彼女は背を向けた。おい、ふざけんな。何考えてんねん。葵に何かしたら許さへんぞ。そう、背中に向かって声を上げた。その言葉がさらに彼女のプライドを傷付けると分かっていたが、何も言わずには居られなかった。
彼女と別れ、すぐ葵に連絡を入れた。経緯を伝えて、念のため用心してほしいと。
「何それ?ドラマかよ」
「いや、ほんまそうなんやけど。俺もできることはするから、念のため気ぃつけてや」
「龍馬、モテモテだねえ」
「いや、本気で!何考えてるんか分からんような奴やねん」
「はいはい、分かりました」
「巻き込んですまんな。うまく立ち回れんくて」
そう言うと、葵は呑気に笑っていた。
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aoi(プロフ) - Ey3467さん» はじめまして*こちらこそありがとうございます!とても励みになります^^ (2021年6月1日 12時) (レス) id: 4b9a3afcbe (このIDを非表示/違反報告)
Ey3467(プロフ) - はじめまして!aoiさんのお話ほんとに大好きなので更新していただけてほんとに嬉しいです! (2021年5月31日 12時) (レス) id: 8bada13383 (このIDを非表示/違反報告)
aoi(プロフ) - よせさん» コメントありがたいです、うれしいです! (2019年8月4日 11時) (レス) id: 3dc625fcb2 (このIDを非表示/違反報告)
aoi(プロフ) - り子さん» うれしいお言葉ありがとうございます*(頂いたコメントですみません、り子さまのおはなし、私もだいすきです…!) (2019年8月4日 11時) (レス) id: 3dc625fcb2 (このIDを非表示/違反報告)
aoi(プロフ) - みやさん» ありがとうございます、嬉しいです* (2019年8月4日 11時) (レス) id: 3dc625fcb2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:aoi | 作成日時:2019年4月2日 23時