橙 (g41) ページ16
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「こたくん、」
小さく呼ぶと、皓太くんは振り返る。そして、優しい表情をして首を捻りながら、ゆっくり私との距離を詰めてくれる。
大きな体、低い声。それに似つかわしくない、かわいい顔。伸びてくる、私なんて簡単に包んでしまうような掌に、最近ようやく慣れた。
「葵さん?」
「…呼んでみただけ」
「なんなん、それ」
変な葵さん、と皓太くんは笑った。その笑顔がだいすきだから、思わず私まで笑ってしまった。
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昔から男の人が苦手だった。特に大きな理由はないが、なんとなく関わり方が分からなくて、高校は女子高だったし、青春なんて程遠い生活だった。大人になっても、必要最低限の会話のみで、関わらないようにしていた。交際、増してや結婚なんて、自分の道標にはないものだと思っていた。
そんなときに、皓太くんと出会った。職場の先輩の知り合いだった皓太くんとの飲み会を、騙されてセッティングされたのがきっかけだった。
先輩とふたりきりだと思っていたのに、男の人がいることを内緒にされて、正直私は悲しかったし、さらに皓太くんは野球選手で、私とは一生関わらない人種だと思われるひとだった。帰りたい、と強く願ったことが顔に出ていたようで、俺嫌われてますね、と苦笑いを浮かべた皓太くんに、今となっては申し訳ない気持ちを覚える。
「…皓太にね、葵ちゃんの写真を見せたら、会いたいって」
その言葉を聞いて、フリーズしたのは言うまでもない。皓太くんは慌てたように、それ言わん約束、と頬を赤く染めていた。そのままぱっと目が合うと、照れくさそうに笑っていた。
なんだか、このひとは、こわくないのかもしれない。そう思った。
そのまま連絡先を交換した。その後、皓太くんから連絡が来たが、無視をし続けた。どうして良いか分からなかった。先輩から皓太が落ち込んでる、と教えてもらって、ようやく覚悟を決めて電話をかけたら、3秒で出たのは今でも覚えている。
「葵さん?!」
「…あ、えっと」
「うわー、よかったー」
「…ごめんなさい、無視をして」
「うん、でも、かけてくれたから」
嬉しい、と、思っていたよりずっと低い声が響く。でも思い浮かぶのは、あの赤ちゃんみたいなかわいい笑顔で。あの時きっと、私は皓太くんのことが気になり始めたんだと思う。
それが恋とは思いもせずに。
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あれ?連載ですか?みたいな書き方になっていますね…!ssオムニバス擬きです
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aoi(プロフ) - Ey3467さん» はじめまして*こちらこそありがとうございます!とても励みになります^^ (2021年6月1日 12時) (レス) id: 4b9a3afcbe (このIDを非表示/違反報告)
Ey3467(プロフ) - はじめまして!aoiさんのお話ほんとに大好きなので更新していただけてほんとに嬉しいです! (2021年5月31日 12時) (レス) id: 8bada13383 (このIDを非表示/違反報告)
aoi(プロフ) - よせさん» コメントありがたいです、うれしいです! (2019年8月4日 11時) (レス) id: 3dc625fcb2 (このIDを非表示/違反報告)
aoi(プロフ) - り子さん» うれしいお言葉ありがとうございます*(頂いたコメントですみません、り子さまのおはなし、私もだいすきです…!) (2019年8月4日 11時) (レス) id: 3dc625fcb2 (このIDを非表示/違反報告)
aoi(プロフ) - みやさん» ありがとうございます、嬉しいです* (2019年8月4日 11時) (レス) id: 3dc625fcb2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:aoi | 作成日時:2019年4月2日 23時