虹色のパレット (ページ6)

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「Aさん、どうして貴女が、ここに」
「どうしてここにって、私は加賀美くんと一緒に家に出たでしょ」
「いや、そんなわけ、」
「もしかして忘れちゃってた？しょうがないよね、もう両手じゃ数えられないくらい経ってるんだから」

一緒に過ごした彼女が、あの日去ったAさん。咀嚼と反芻を繰り返して漸く飲み込めたそれが彼女の顔を鮮明に照らし合わせる。……確かに、似ていた。

「それにしたって、何故天界にいらっしゃったんですか……？」
「もうそれ聞いちゃうんだ、別にいいけど」
「それで、理由なんだけどね＿＿＿」

彼女の口から出る言葉が恐ろしく感じて、まるで聞いたらもう二度と後戻りできないような気がして、後ずさる。それに合わせて彼女も逃がさないとでもいうような風に近づいていく。私の足が穴の目の前まで来たことに気づいて、思わず止まってしまった。あぁ、これ、終わりだ。
彼女の微笑みがまるで純粋な悪魔に見えてくる。元から天使じゃなかったみたいだ。
つかまえた、と私の両手を自分の方に持って行って彼女が口を開く。

「＿＿＿加賀美くんが、望んだからだよ」
「……ぇ」
「加賀美くん、大人になって辛いなとか苦しいなとか思わなかった？」
「いっそのこと私に連れ去られたいとか、思いませんでした？」

言葉が出ない。何か声を出そうとしても、出てくるのは二酸化炭素の多くなった空気だけ。
確かに思った。けれど、実際に連れ去られるとは思わなかった。そんな私を置いていって彼女は語り続ける。

「あ、心配しないでね。もう加賀美くんがこの先に入っても大丈夫だから」
「だって加賀美くん、もう神様なんて信じてないでしょ？」
「実際、私が迎えに来れたのも加賀美くんが神様を信じてなかったからなわけだしね」
「大丈夫、堕天使としての生活も案外楽しいよ。天界と似てる部分は多いから案外すぐに慣れるかもね」
「でも、やっぱり加賀美くんが取られちゃうのは嫌だなぁ」
「あ、それならもう加賀美くんが働かなくてもいいようにしちゃってもいいかもね」
「一応痛いことは進んでしたくないから一応聞くけど、加賀美くんは大丈夫かな？」

詰んでしまった現状に対する最適解を見つけることなどできないまま彼女の話を最後まで聞いてしまった。彼女のは質問じゃない、命令とかその手の類だ。