虹色のパレット (ページ4)

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一つ、彼女は家事炊事ができる。
それも大分上手に。基本的に忙しくて遅くまで帰ってこれない時は必ず自分の分の夕食が置いてあって、たまに彼女自身が起きている時は必ずお迎えの言葉をかけてくれる。ここまで尽くしてもらえると私達の関係性がどういうものなのか分からなくなってくるけれど、間違いなく彼女は天界に居てはいけない人物で、私はそんな彼女を匿っている共犯者だと思い出すことができた。
二つ、彼女は天使に対して深い知識と理解があった。
例えば毎週末のお祈り、指定の衣装や決められた範囲内の食事で朝を過ごさないといけないそれに彼女は配慮してくれていた。何も言わずとも。それはまるで元々天使であったように何も戸惑うことがなく。そんな彼女に少しだけ仮説を持ってしまったが、気のせいなのかもしれない。と自分に言い聞かせた。

彼女にちらつく違和感を、ずっと見ないふりをしようとした。

しかし、ずっとそうやって生きていくことなど不可能だった。
違和感がそろそろ看過できなくなってきたのはとある秋の日で、冬に近づくにつれ段々と寒くなっていく朝の出来事であった。
その日は私自身仕事もお祈りもない日で家でゆったりと過ごしていこうと思っていた。

「ねえ、ハヤトさん」
「はい、どういたしましたか？」
「行きたい所があるのだけれど、一緒についてきてもらってもいいかな」
「え、いや……構い、ませんけど」

別に彼女の要望に躊躇ったわけではない、ただ突然外に出たいと言われただけ。
もう後の祭りなのだが、今思えば、もう少し疑う事を覚えるべきだとかそういう教訓というのが一番相応しい様な気がしてくる。子供のころに散々と言われてきたようなことを大人になってもう一度教訓としてしまうのもなんだか恥ずかしいものだが、言ってしまえば子供のころに言われ続けたことを忘れてしまった愚か者ということでもあった。

「ありがとう、じゃあきまり。夕方ごろから外出たいから、それまでゆっくりしててもいいよ」

そう告げる彼女の真意も測れないほど。

それからは彼女が言っていたように夕方ごろまで過ごすことにしていた。いつも通りの美味しい食事、自分の趣味嗜好、外出用の衣装。いつもと同じで違う一日という不思議な体験と、昼に見た友人が消えた時の夢。それはまさしく加賀美ハヤトという天使の生におけるターニングポイントで、私が愚かしい存在になる最後の警告だったような気がした。