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『ごめんね、待たせちゃった』
「全然待ってないぞ。...よし、飯食うか!」
退屈そうにスマホを弄っていたガッくんは、お風呂から上がってきた私の声を聞いてパッと顔を輝かせた。
そしてAは座ってて、と私に言って台所から湯気の立っているスープとご飯を運んでくる。健康的な生活を意味している彼等に私は思わず目を細めた。
「頂きます」
『..いただきます』
私は手の震えを抑えながら箸を動かす。口に入れた薄い卵色のじゃがいもは殆ど味がしなかった。
言うなら今、だろうか。目の前でご飯を美味しそうに食べるガッくんを見て思う。わたし自身、彼自体はまだ好きだけど、正直に言って疲れてしまったのだ。周囲の人間から隔離される事に。隔離されていても尚、私を束縛する彼に。
トークアプリの相手も彼以外全員消去した。洋服だって彼が選んだ物を身に付けているし、彼の言いつけ通り他の人と口は聞いていない。門限だってきっちり守っているし、今日だって際限なく来る連絡には全部返信をした。なのに、なんでまだ私を縛ろうとするのか。
気付けば、箸は止まっていた。
「どうしたんだ?」
優しい瞳が此方を向く。その濁った柑子色には、随分と浮かない顔をした私が反射していた。
『別れ、たい』
きっとそれは、私の本心から出た言葉で。私はそれに確信を持っていたから、奇妙な程上がる心拍数と背中を伝う嫌な汗とすっかり乾いてしまった喉は無視して彼の返事を待つ。ねえおねがい、はやく返事して。
心做しか速い私の呼吸だけが部屋に響いていた。
「...どうして」
彼の薄ら赤らんでいる唇が、か細く言葉を紡いでそのまま床に落とす。
ガッくんは原因のひとつも見つからないとでも言いたげに顔を歪めて私を見つめた。何故だかその瞳が非常に怖く思えて、私は着ている薄紅色の部屋着の裾を強く握る。
俄に唇が震えて、私は彼の「どうして」に答えることを止めた。
代わりに、ガッくんが口を開く。
「....誰にそんな事吹き込まれたの?大学の友達?それとも親?まさかとは思うけど男じゃあないよな?そもそもオレ、Aには誰とも話すなって言ったよな?......なあ教えろよ。一体オレ以外の誰の入れ知恵なんだよ!」
機械的で無理やり感情を封じ込めたような声を荒らげてから、彼は怒りを逃がす様にテーブルを強く叩いた。
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作者名:みそ漬けキュウリで殴る x他6人 | 作成日時:2021年11月16日 17時