【冥色/knmc】同じ色 ページ18
下校時刻を告げるチャイムが鳴り響いた
こんな廃れた美術室にも届くほど早く帰れと言わんばかりの音量が憎たらしい
未だ描きかけのキャンバスに雑に色を塗り重ねて終わりにする
いつもなら下校時刻より少し前に書き終わるのに、調子が悪かったかなと少し複雑な気分
手元の絵の具でぐちゃぐちゃになったパレットと筆をかき集めて立ち上がった
備え付けの流しへ歩き出そうとした私の足を、ガラガラと扉の開く音が止める
あのとってつけただけの顧問が来るはずもない、部員も私だけだ、まさか入部希望、、なんてこともないだろう
こんな時間にここを訪れる人物、心当たりは一つだけだった
「、、剣持君」
呟いた声は自分で思っていたよりも大きかったらしい
「よくわかりましたね」
まぁこんな時間に来るのなんて僕だけか、と私の独り言に答えると、先ほどまで私が座っていた席の隣に座る
彼は多分部活後だろう、それなのにいつも全くと言っていいほど汗臭さを感じない
最初こそ何故だろうと疑問に思っていたが、剣持君の匂いを嗅ぐ自分、という構図が嫌だったので早々に気にしないことにした
剣持刀也、
私の同級生でありクラスメイト
その卓越した話術でなんだかんだ常に話の中心にいる、友達の少ない私とは縁遠い、そんなはずだった人。
私達の出会いは、ただの偶然だった
たまたま美術室に忘れ物をした剣持君
たまたま遅くまで残って絵を描いていた私
そういえば、あの日も今日みたいな夕暮れ時だったな
空の絵を描くことが好きな私は、今日と同じように夕暮れを描いていた
ばったりと出くわしてしまった剣持君が、私の絵を見て一言、綺麗だと漏らす
、、その時、私は剣持君に恋をした
別に剣持君がタイプな訳ではない、かっこいいとも思うし、彼はそれなりに女の子から告白もされている、でも私が彼に抱いていたのは、好意にも満たない羨ましさ、ただそれだけ
ただそれだけ、だったのに
"綺麗"だなんて、誰にでも言えるような言葉
自分でもよくわからない、そんなたった一言でこの人を好きになってしまうだなんて
でも、この時芽生えた感情は私と剣持君の時間が合うごとに行われる今日のような秘密の会合を重ねるごとにすくすくと育ち、今では立派に恋だという自覚、なんて厄介な花を咲かせてしまっていたのだった
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作者名：みそ漬けキュウリで殴る x他6人 | 作成日時：2021年11月16日 17時
