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「加賀美くんと過ごした今までの日々、とても楽しかったよ」
「でもね、私はやっぱりあそこにいるべきじゃないの」
「あそこは私には眩しすぎたよ」
「だからね、」
「待ってくださいよ、」
「……またいつか、迎えに行くよ」
「……え、?」
そんな笑顔で、そんなこと言わないでくれよ。手を伸ばしたくても伸ばせないまま、何も知らない私を置いてどこかへ消えてしまった。慌てて追いかけようとその穴を潜り抜ようとしたが、強い頭痛に襲われて、思わず目を瞑ってしまった後には私の足元に黒い羽根が落ちていただけであった。
あれから数年以上経ってしまった現在も、あの話は確かに秘密事であったはずなのだがまるで忘れるなと言わんばかりに度々自分の夢に現れては冷や汗を残して去っていくものとなっていた。まるで真綿で首を締めるような呪い。
私は天使の醜さを知ってしまった。
神の為に味方を手にかけてしまうことに私の信じてきたものはあるのかと疑問に思ってしまうのだ。よくよく考えてみれば子供時代も親戚や知り合いが居なくなってしまうことがあったし、彼女が消えてしまったことも事故だと処理されていたが私はそれが真実でないことを知っている。
だから誰かが不都合だから隠蔽するようにしているのだろう。神は果たしてそれで許してくれるのだろうか、はたまた神は沈黙する存在故にそれがまかり通っているのか。
今ならなんとなく彼女の言いたかったことが分かる気がしてきた。昔、この手にはずっと透き通るような白か自分達の素肌のような色くらいしか見えることのないだろうと思っていたはずなのに、いつの間にか様々な紅が乗り移っていた。鮮やかであったり、くすんでいたり、こびりついてしまうほど面倒なものであったり。時には青や緑だったかもしれない。そんなことを繰り返すうち、誰を傷つけずに生きることもできなければ神のお言葉を守ることもできずに手を汚す行為を私はやらされてしまっていた。もういっそ、彼女に連れ去ってほしいくらいに。夢のような過去から逃げていたのにいつの間にか縋ってしまっていた。馬鹿みたいな話だ。
そんな憂鬱な日々を送っていたある日のこと、その日は散々だったかもしれない。やけに頭が働かなくて、仕事が手につかなかった。もっと頑張らないといけないことなんてたくさんあるのに。体が鉛のように動かない、頭の中身が何かに支配されて空っぽになってしまった。
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作者名:みそ漬けキュウリで殴る x他6人 | 作成日時:2021年11月16日 17時