漫画みたいなー駒田航 ページ1
「あれ、今日はお一人なんですね」
「あ、はい。覚えててくれたんですね!」
「えぇ。それもお仕事の一環なので」
お仕事用の微笑みを向ける彼女に対してマスターがそういうことはわざわざ言うな、と苦笑いで声をかける。
ここは以前、某コンテンツのチームで打ち上げをするときに、浅沼さんの紹介でお邪魔したバー。
どうやら彼女は最近ここでバーテンダーとして働き始めたらしい。
その前から浅沼さんはここの常連さんだったらしいけど。
「面白いですね」
「お褒めの言葉ありがたく頂戴いたします」
そういって恭しくお辞儀をしてみせる彼女に僕は好意を持った。
前回は先輩とのお話が楽しかったし、浅沼さんはマスターと親しげにおしゃべりしていたから彼女とはあまり関わらなかったもんな。
かっちりした雰囲気とは逆に時々おどけた様子をみせる彼女を見て今日も楽しくお酒が飲めそうだ、と思った。
「僕の名前、駒田航っていうんですけど」
「ええ、存じ上げております」
「えっ」
前回名乗ったかな、そう首をかしげていると、
「浅沼さんからお話を聞くことがあるので」
「ああ、そう、なんですね」
浅沼さんが自分の話をしてくれているのを嬉しく思う反面、どんなこと言われているのだろうという恥ずかしさを抱いて言葉に詰まってしまう。
「声優だけじゃなくてカメラマンもやっていらっしゃるとか、トリリンガルだとか、スタイルがいいとか男前だとかいい後輩だとか。本当に仲良しなんですね」
「よく覚えてますね・・・。お仕事の一環ですか」
なんてちょっと問いかけてみる。
「そうですね」
予想通りの返答とにっこり笑顔。
「バーテンさんってすごいんですね」
「まぁあまりに漫画のような設定に驚いてしまって覚えていた、というのもありますが」
「え?」
「最初は演じられる役のことをお話しているのかと勘違いしてしまったくらいです」
「持ち上げるのが上手ですね〜。さすがです」
謙遜しつつ、内心ちょこっと嬉しく思ったり。
ちょっと照れくさくて手元のカクテルに視線を落とした。
「割と本当のことなんですけどね」
その声に驚いて思わずばっと顔を上げると、営業スマイルとは少し違った笑顔で先ほど頼んだおつまみを差し出す彼女の顔があった。
「えっと・・・っそうだ!お名前、貴方のお名前教えてください」
「私のですか?」
「はい、マスターと違ってなんて呼んだらいいかわからなくて」
「A、です」
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作者名:おーかみお | 作成日時:2020年1月19日 18時