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俺は思わずAさんを抱きしめた。
Aさんには誰かから必要とされている愛情が足りひんかった。
自分の心の中で自問自答して出そうとしていた答えが、
違ったのかもと思った瞬間、人は奈落の底まで落とされることを俺は知っている。
「…望くん、もう私。」
泣き止まずに息が荒くなるAさん。
ビールの匂いが俺の服にも染みつく。
「頑張ってきた。
Aさんは6年間頑張ってきたから。大丈夫。」
「…………….限界。」
俺はAさんから離れて髪の毛を触った。
親指でAさんの涙を拭う。
“明日、楓にちゃんと話そう。俺も見守ってる。これからが勝負やろ？”
手話で伝えると、Aさんはゆっくりと頷いた。
「いつでも味方してくれるね、望くんは。」
俺も冷蔵庫からビールを取り出した。
“今日は飲もう。”
Aさんも3本目に手をつけていた。
Aさんは意外と酒豪なのかもしれない。
俺はAさんの味方。でも、楓の味方にもなりたい。
楓やって楓なりに思っていることがある。
今日は突然のことで頭が整理できてへんかったかもしれへん。
Aさんと楓に残された時間は、３日しかない。
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作者名：きい
| 作成日時：2021年9月8日 22時
