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そのままお風呂に入るAさん。
いつもなら楓と一緒にお風呂に入るはずやのに。
1人の時間が急に増えてしまったAさんにどんな言葉を掛ければいいのかわからん。
それから今日の夕方にAさんに言われた言葉を思い出した。
Aさんは本土でなにがあったんやろか。
6年経っても本土に帰りたくないという思いが未だにあるのは、
きっとここの生活が楽しいのもあったと思う。
今のこの状況はAさんが思い描いてない島の暮らしのはずや。
皿洗いが終わった頃に、髪の毛がまだ乾いてないAさんが戻ってきた。
「望くん、もう本土に帰って。」
「…何でそんなこと言うん。」
「のんびり静かに暮らしたいなら、ここにいるのは間違いだよ。
今立て込んでるでしょ？望くんはこれが島の暮らしの理想？
本土からここに来てこんなこと予想できた？」
Aさんは俺に急に冷たくなった。
最初に出会った頃の冷たさとは違う。
感情がこもっていた。
俺を軽蔑しているのではない。
自分で自分自身のことを軽蔑していた。
“Aさんと出会ったことも予想できひんかったよ。”
そう言うと、Aさんは俺から顔を背けた。
「……。」
“俺は、Aさんに出会えたことは奇跡やと思ってる。”
そう言うけど、俺の方を向いてくれないAさん。
辛くて痛くて不安になって、Aさんは冷蔵庫からビールを取り出した。
「感情がごっちゃ。」
縁側に座って少しずつ飲みながらAさんは遠くを見つめる。
俺はそんなAさんの隣に座って同じように何度も見てきた父島の夜を感じる。
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作者名：きい
| 作成日時：2021年9月8日 22時
