＊ ページ10
「送ってくれてありがとう。」
神山「全然。おれんちこの先やん。」
「へへ、そだね。」
じゃあ、と言って玄関の門を開けようとしたら
お母さんがちょうど玄関から出てきた。
それも焦った顔をして。心ここに在らずのような感じで
私の横を通り過ぎる。
「お母さん？」
その声に気づいてお母さんが振り返り、私の手をとる。
「え？」
母「お父さんが、お父さんが…！！！！」
ちょうどタクシーを止めて、
お母さんは私を雑に中に押し込む。
「あっ」
その拍子にエプロンが入っている誕生日プレゼントを落としてしまう。
ともくんと少しだけ、視線がぶつかる。
ともくんの口をつぐんだ表情から、わかる、心配しているんだってこと。
タクシーのドアが閉まる。
母「鹿島病院までお願いします。」
タクシーが動き出す。
後ろを向くと、ともくんが誕プレを拾い上げてこっちを見ていた。
「お母さん、鹿島病院って？どういうこと？」
母「どうしよう、私、
あなた…。
あなたっ」
「お母さん、落ち着いてよっ」
私はワケがわからないまま、泣きじゃくるお母さんの背中を一生懸命にさすった。
お母さんは、子供のように大声をあげて泣く。
ハンカチで拭いても、止まらない涙。
病院で案内された場所で目にしたのは、
白い布で顔を被されていた、息がないお父さんと
中身がぐちゃぐちゃのケーキの箱だった。
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作者名：きい
| 作成日時：2021年6月5日 16時
