【名探偵コナン】消えた捜査官5【降谷零】

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「降谷、ちょっと来てくれ。」

「…はい。」

後は、デスクの上の書類を整理するだけだった。
あと5分もすれば、久々に残業を切り上げ、車を飛ばし、Aの元へ向かう筈だったのに。

通された部屋で上司から告げられたのは、最悪の知らせだった。



「綾瀬Aが生きている事が、一部マスコミにバレた。」

「…‼」

「明日の朝刊の一面にどんと記事が出るらしい。」

「そんな、まさか…」

「マスコミは面白おかしく掻き立てるだろう。
彼女の行動は勇気ある告発だったが、警察組織への国民の不信感を煽るものであったのも事実だ。
未だに警察への風当たりも強い。
マスコミの報道の仕方によっては、司法や世論がどう動くか…こればっかりは全く予想がつかん。」

「……」

「彼女の生存が露見する以上、FBIから打診された証人保護プログラム案は立ち消えだ。」

「……」

「ただでさえ今は、警察の姿勢に国民からの厳しい視線が向けられている。
電波法違反…詐欺罪…その他諸々…
この国の安全を守る為だったとしても、彼女だけ無罪放免という訳にはいかない。
恐らく上は、綾瀬Aの逮捕で事件の幕引きを図るつもりだろう。」



結局、その日Aの元へ向かう事は出来なかった。
降谷は自分がどうやって家に帰ったかすら記憶にない。




言葉通り、翌日その一報はトップニュースとして報じられた。
どこから漏れたのか、ご丁寧にAのバックグラウンドまで全てだ。
プライバシーの欠片もない報道に、警察関係者は憤りを隠せなかったが、それは良くも悪くも彼女への同情を集め、比較的彼女を擁護する世論が多くを占めた。




『警察はね、今試されてますよ！』

逆に、その風潮に異を唱えたのは法律家を始めとする識者達だった。

『彼女は英雄に見えるかもしれません。
けれど、彼女は英雄ではなく義賊です。』

『これを見逃せば、警察は何も変わらないですよ！』

彼等の言い分は無理もない、尤もだった。
どんな事情があろうと、司法は万人に平等でなければならない。
それが崩れれば、国の根幹が揺らぐ。
それが、この国の法律なのだ。


降谷は十分わかっている。

わかってはいる。

けれど、受け入れる事は到底出来なかった。

降谷は、前日訪れる事の出来なかったAの病室に居た。
Aの手を握りしめ、静かな病室の中、時間を忘れた様に只々Aの眠る顔を見つめ続けた。


降谷は願った。

どうか、彼女の見る夢が穏やかで幸せなものであるようにと。

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