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彼の盗みのテクニックを間近で見る機会は沢山あったのだ。キッドの行動を推測すれば――、
『(誰かに変装して身を潜めた後、人知れない場所で事が落ち着くのを待つ?)』
―――
――
―
『あのっ、Excuse me(すみません)』
「!?」
古びた建物の入り口で、モップとバケツを持つ清掃員に声を掛けたのは、僅かながらの期待からだった。確信がある訳ではなかったけれど、肩を強く押えながら歩く姿は印象的だし、後は“女の勘”というやつだろう。
押えている箇所に血が滲んでいないのはお得意のマジックなのかもしれない。しかし、思っていたより元気そうな姿を確認してしまえば、無意識の内に詰めていた息を吐き出してしまう。
最悪の事態はなんとか回避出来たことを今は喜ぶしかない。
『なんて言うんだろ。もし良かったらこれ……使ってください』
振り返った姿を見ても、目深く被られた帽子で顔つきは確認できない。しかし、間違いなくキッドその本人だろうと自分の直観を信じてみた。
彼は私の登場に驚き目を見張った。いつものポーカーフェイスを忘れた彼は、私と同じくらいの年代に思えてしまう。
『勿論、警察には伝えてないよ?』
戸惑いを隠せない彼の前に手に持っていた紙袋を押し付ける。
中身を確認して更に驚かれる。少し得意げになってしまったのは秘密だ。
「なん、で、貴女が此処へ?」
『かたいことは気にしなーい!』
警察に跡を付けられている感じもないし、傍から見ても地元の清掃員に道を訪ねる観光客の図に見えるだろう。
驚き戸惑うキッドに少しでも安心してほしい気持ちを乗せて、出来る限りの笑顔を向けた。
『以前は逆に足を引っ張ってしまったから、少しでも貴方の役に立てたらと思ってさ』
『今度は私に助けさせてよ。マイヒーロー』
蘭のように武道と縁がある訳ではない。新一のように頭が切れる訳でも、冷静さを持っている訳でもない。彼には有能な仕事仲間が居ることも知っていたけれど、いつも助けてくれる貴方に少しでも恩返しがしたい。
それが今の私に出来る精一杯なのだ。
『手当てをしたい気持ちもあるけど、手先があんまり器用じゃないしさー。貴方も素顔を知られると困るでしょ?』
「、」
『あんまり出歩くと友達を心配させちゃうから。“また後で”』
「え、ええ」
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美紀 - 初めましてコナンの映画大好きなので最高ですコロナウイルスと熱中症に気をつけてくださいね (2020年7月4日 12時) (レス) id: 8204dae0fb (このIDを非表示/違反報告)
神崎(プロフ) - shoko0619さん» 更新遅くなってしまい申し訳ありません。そういっていただけるとうれしいです^^ 完結に向けて続編をつくりましたので、引き続きそちらで読んでいただければと思います^^ (2020年5月26日 0時) (レス) id: 82f870f677 (このIDを非表示/違反報告)
神崎(プロフ) - 冷やし中華さん» 更新遅くなってしまい申し訳ありません。完結できるように書き進めようと思っていますので、またお暇つぶしに程度に来ていただければと思います (2020年5月26日 0時) (レス) id: 82f870f677 (このIDを非表示/違反報告)
神崎(プロフ) - 雨上がりのcrewさん» お返事遅くなりました! ありがとうございます。願望の塊ですが少しでも楽しんでいただければと思います^^ (2020年5月26日 0時) (レス) id: 82f870f677 (このIDを非表示/違反報告)
shoko0619(プロフ) - 神崎さんの小説読ませていただいてます。もう最高すぎます。キッドとヒロインもうドキドキで見てます。もう更新はされないのですか? (2020年4月20日 13時) (レス) id: 9301928d42 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:神崎 | 作成日時:2019年4月19日 22時