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ふんわりと舞った髪がカーテンの隙間から覗く月明りに照らされる。デマントイドガーネットに例えられるような澄み切った瞳が俺を映すのだ。
『けど! ……貴方に会えて良かった。一人で不安な気持ちもあったけれど、会ってゆっくり話したいってずっと思ってたの。貴方の無事がなによりも安心出来るから』
『だから貴方まで悲しまないで。笑ってよ、マイヒーロー』
彼女がとん、と俺に頭を預けてきた。普段は前のめりなくらいボディタッチが多いのに、気遣っているのだろう。
俺の白いスーツを握りつつ胸元に頭を傾ける彼女の背中にそっと腕を回す。
込み上げてきたのは不甲斐なさ、後悔、感謝、無力感……それら全ては彼女への愛しさに切り替わってしまうのだから不思議だ。
確かに今はキッドの姿に変装しないと彼女の本心に近づくことも、心へと踏み込むことも出来ないだろう。後悔を覚えない訳ではなかったが、少しでも彼女の心を晴らすことが出来るのであれば、キッドを演じることを喜びとしよう。
「貴女はいつも私を困らせる天才だ」
『……キッド?』
「私にそのような言葉を掛けるのも貴女だけ、怪盗という疎まれた存在を拒むことなく受け入れるのも貴女だけ」
「どれだけ美しい宝石を集めたとしても、貴女には負けてしまうのでしょう」
僅かにしゃがみ、顔を上げたAの目元に唇を落とす。
驚く彼女に向けてキッドとして出来る最高の笑みを浮かべてみせた。
「知ってしますか? Aお嬢さま。私は怪盗で、怪盗は盗むのが仕事。たとえそれが人の心だったとしてもね」
わなわなと震え、顔を真っ赤にして狼狽える彼女に向けて、何も持たない白い手袋をした掌を見せる。その直後に指先を鳴らせば、掌の上にソレが現れるのだ。
ソレを驚く彼女の頭に乗せて、窓へ向かって踵を返す。
『え、これってナイトキャップ?!』
「会いたかったのは貴女だけではなかったということです」
『っ!』
「あと、そのネックレスは実にお似合いです。それではよい夢を、Aお嬢さま」
手すりから飛び降りてハンググライダーを立ち上げる。夜景を眼下に飛び立った俺を追うよう形で彼女がベランダに駆け寄ったのが気配で分かったが、振り返ることはしない。
「(A、おめーだけはぜってーに俺が護るからな)」
一刻も早く犯人を捕まえて彼女を安心させたい。新しい決意を胸に秘めるのだった。
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美紀 - 初めましてコナンの映画大好きなので最高ですコロナウイルスと熱中症に気をつけてくださいね (2020年7月4日 12時) (レス) id: 8204dae0fb (このIDを非表示/違反報告)
神崎(プロフ) - shoko0619さん» 更新遅くなってしまい申し訳ありません。そういっていただけるとうれしいです^^ 完結に向けて続編をつくりましたので、引き続きそちらで読んでいただければと思います^^ (2020年5月26日 0時) (レス) id: 82f870f677 (このIDを非表示/違反報告)
神崎(プロフ) - 冷やし中華さん» 更新遅くなってしまい申し訳ありません。完結できるように書き進めようと思っていますので、またお暇つぶしに程度に来ていただければと思います (2020年5月26日 0時) (レス) id: 82f870f677 (このIDを非表示/違反報告)
神崎(プロフ) - 雨上がりのcrewさん» お返事遅くなりました! ありがとうございます。願望の塊ですが少しでも楽しんでいただければと思います^^ (2020年5月26日 0時) (レス) id: 82f870f677 (このIDを非表示/違反報告)
shoko0619(プロフ) - 神崎さんの小説読ませていただいてます。もう最高すぎます。キッドとヒロインもうドキドキで見てます。もう更新はされないのですか? (2020年4月20日 13時) (レス) id: 9301928d42 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:神崎 | 作成日時:2019年4月19日 22時