華麗なる奇術師たち 2【怪盗キッド】

82:どうしよう… ページ33

シュッッ…



(ぁ、やっと来てくれたんだ…
もう脚が縮みそう)



白馬君がゆっくり倒れていく
まるでスローモーションのような感覚だ
睡眠ガスで眠っていくのがわかる

何となく自分の視界もおぼろげになりつつある
私も彼の近くにいたから睡眠ガスを吸ってしまったかもしれない

ボーッとみていたら視界かが白くなる
それもこれも彼の仕業だと判っているから
普通なら混乱する状況でも
ほっとして気が抜けていく


すると白い手袋が前を横切った
いきなり抱きしめてきたのだ


あの、白いマントと片目が白いモノクルの、
青いネクタイしたスーツを着た、彼が

状況を把握するのに時間がかかった

(………え




何で？何で？)


きつく抱き締められる
私はいったいどうしてこのような状態か
理解できず

ただただ心の乱れが止まらない

とりあえず睡眠ガスかかったかもと思ったおぼろげな感じが吹っ切れてしまうほどに


また急に体を少しだけ離すと

「じっとしてろ」
と一言言われたと思ったら
私を連れてすぐ近くの給水塔のドアに走っていった



ものの３秒で開けると
中に入り、そのまま私を横に抱いて
階段を上っていく

彼の低い声が頭のなかで残って離れなかった


あまりの早業に言葉もでないまま、
いつの間にか給水塔の隣の
コンクリートに下ろされる



もう胸がいっぱいで
なんだかよくわかんないから
どうにかしたくて
やっと離れられると思っていたのに



彼は肩を掴んだままで
ある程度の近さのまま
もの凄く真剣な表情で見詰められる



「な、な、なに？……どうしたの？

…じゃなくてあの

何か……
あの………ありがとう……あのそれで……その……」



(………何で？

何で彼は私を見詰めたまま、何も言わないの？

何も言ってくれないの？



どうしよう……)


彼に見詰められているこの状況も
きつく抱き締められたことも
いきなり抱き上げられてここまで来たことも
なんだか恥ずかしくて


もうどうにかなりそう


こんな涼しい風が吹く
月のある夜なのに
顔と体はほてるばかりで
熱くてたおれそう……

彼はKIDなわけだから
夜の闇に光るように目立って見える

前から思っていたけれど
特殊な存在である彼を目の前に

こういう時に限って
瞳がきれいだとか睫毛長いなとか
変なこと考えてしまったり
やけに緊張してしまう自分がいて


なにもできないまま立ち尽くして
時間が止まったよう

もしかして時間が止まったのかな…

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