第３３９話 ページ10
「そんなに久々かな……1ヶ月も経ってないんじゃない？」
「んなもんか……随分長い間こんなやりとりしてなかった気がした」
気のせいでしょとわざとらしく笑ってから靴を脱いで玄関を上がる。でも気持ちはわからんでもない。快斗の元を離れていた間、時の流れがすごいゆっくりだった気がする。そして反対に今はすごい早い。立石を流れる水みたいに、とても、早い。何だか快斗といたらすぐ人生なんて終わってしまいそうだ。
「はあーー快斗」
「ん？」
「19歳になりたい、ん、ですが」
快斗は瞠目して、遅れて「え」と声を漏らす。そしてさらに遅れて「なに？」と意地悪な表情を浮かべる。
「幼児化解除したい」
「つまり？」
「……言わせないでよ」
私は視線を落としてから、もう一度快斗に向き直って距離を詰めた。ドラマだったらここで「ばか……」とかなんとか言えばいいんだろうが、そこまで気は回らなかった。この身長差、自然と上目遣いになる。
「急に、どーした？」
優しい声だった。声だけじゃない、表情も優しい。ああ、そうだ、貴方は最初から優しかったね。そうだ、そうだったと自分に言い聞かせてから「ね……」とそれをせがんだ。気づけば快斗の服の裾を引っ張っていた。快斗は優しい表情のまま、視線の高さに合わせ、私の顎をつかんだ。
他人の体液を取り込めば幼児化が解除される、都合のいい体。
体液なら血でもいい。唾液でなくていい。
のに、私が求めたのはーー求めているのは口づけだった。
整って綺麗な顔が近づく。息がかかる。反射的に目を瞑った。心にざらつく後悔と焦り。でもそれを上書きするくらいの高揚と衝動。なんだかわかんないけど、求めてしまう。
ーー自分の唇に、柔らかいものが当たる。
でもそれは求めていた柔らかいものじゃない。
目を開けて当たっているものが、快斗の親指だと気がついた。
「お預け」
顔が赤くなるのが自分でもわかる。急に恥ずかしくなってくる。上手く物事を考えられない。快斗は私の唇から親指を外し、指の腹をぺろっと態とらしく舐めた。また顔が熱くなった。
「マセガキ」
「……か、快斗の方が年下じゃん！」
快斗はまた優しく笑った。でもその笑みは怪盗キッドみたいな紳士的な笑顔ではないし、黒羽快斗としてのやんちゃな笑顔じゃない。一人の男としての計算高い、笑みだった。
「いい子はちゃんと待ってろよ。夜まで」
言って、フッと右耳に息を吹きかけられる。固まっている私を傍目に快斗はリビングに戻った。
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匿名 - 初めまして。楽しく読まさせて頂いています。一つ尋ねたいのですが195話で言っていた「零」シリーズ？はどこに行ってしまったのでしょうか？読みたいのですが見当たらなく…もし公開していないのであればぜひ公開してほしいです。宜しくお願いします。 (2022年1月11日 19時) (
レス) id: 0d9a3fa9b5 (このIDを非表示/違反報告)
あんこ - とっても面白いです。続きを楽しみにしてます。 (2021年6月26日 20時) (レス) id: 2e973fc2c9 (このIDを非表示/違反報告)
pandahero(プロフ) - もしこのサイトを開く機会があれば、またほかのサイトで書くことがありましたら、ぜひまた読ませてもらいたいと願うほど、本当に素敵な作品でした。ありがとうございます (2021年5月12日 12時) (レス) id: 6df71f9a53 (このIDを非表示/違反報告)
華(プロフ) - 本当にとても面白かったです！更新待ってます!!! (2020年8月5日 22時) (レス) id: 12db53baf5 (このIDを非表示/違反報告)
柘榴(プロフ) - ただの純愛じゃなくて、少しドロドロ？してて面白いです！組織がやってることブッ飛んでるな、とか思いつつ笑 快斗と主人公がこれからどうなるのか、組織にまたまた捕まってしまうのか展開が楽しみです！更新楽しみにしてます！ (2020年5月28日 23時) (レス) id: 9f6637cdbb (このIDを非表示/違反報告)
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