【怪盗キッド】奇術師と道化師 捌

第３６７話 ページ38

「……ワンパターンだな、おめー」
「え」

腕を掴んだまま、工藤新一は呆れていた。
意表を突かれて、その隙をついて逃げ出そうーーと思っていたんだけどどうやらそっとやちょっとのことじゃもうこの少年は驚いてくれないらしい。

「前もこうやってホラ吹いて逃げ出しただろ。流石に何回も騙されねえっての」
「まじか〜。見逃してくれない？」
「バーロー。このままオメーを警察に突き出してやる」
「え〜」

落ち着いた口調になっているのは焦っているせい。内心どうしようかヒヤヒヤしている。
だけどーーと私は強がって口を開いた。

「でもいくら警部でもこんな子供がキッドの手下なんて信じてくれないんじゃない？」
「だからって逃げられると思うなよ」

彼が強気なのは何か策があるからなのだろうか。
もしかしたらお互いにハッタリかましてるだけかもしれないな、なんて。
しかしこの状態で不利なのは私だ。

「……シェリーに内緒で解毒薬を3錠。これでどうだい？」
「そんな手には乗らねえぞ」

少しだけ腕を掴む力を弱くしたくせに、と小言を言おうか言わまいか。
元太君を穴から救い出した機動隊員が集まってきたがようやくこの状況を打破する方法をようやく思いついたので口許を緩めて笑みを作る。
緩んだ口許を左手で覆ってから改めて工藤新一を見た。

「まあ警察に突き出してもらってもいいけど……とすると君たちと約束した解毒薬は渡せなくなるかも知れないね。キッドの手下となればなかなか釈放されないだろうし」
「脅しのつもり、か？」
「違うよ。ただの独り言。私はこれでも組織のことが結構嫌いなんだよ。解毒薬の事以外でももっと君たちと協力してもいいんだぜ？ だけど江戸川コナン、君は私のことをブタ箱にぶち込もうとしてる〜。なんかもったいなくない？」

下手に出て駄目なら煽ってみる。誰かに聞いた交渉術だが名探偵にはあんまり効かない。
だけどほんの少しだけ名探偵の心が揺れ動いたーー風に見えた。そのほんの少しだけで充分。
私は工藤新一に腕を掴まれたまま階段を飛び降りた。

「うわっ！」

宙に浮いた隙に腕を解放されると思ったがそう甘くはなかった。
だからプランB。ふわりと浮いた小学一年生の彼を先に地面に着地した私が抱きかかえる。
なんというかお姫様抱っこみたいになってしまった。
そして、抱きかかえたまま私は走り出す。

「え、おい！ 離せ！」
「このまま一緒に逃げようよ〜工藤新一！」
「ふざけんなおい！」
「組織までご案内〜！」

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