【怪盗キッド】奇術師と道化師 肆

第１４２話 ページ5

「スネイク様！？ これではパンドラの情報が……」
「振出しに戻るだけだ。それにこの口ぶりでは知らぬようだしな」

人間、というのは死んでも『耳』――『聴力』が最期まで残ると言う。
この少女も例外なく『耳』だけが残った。
もうすでにない意識のそこで『耳』だけがその会話を聞いていた。


「小娘の始末を――いや待て、このままにしておこう」

スネイクが怪しげな笑みを浮かべる。

「まずはキッドとその手下の拘束(・・・・・・・・・・・)だ。映像より生で見せた方がいいだろう……」

部下のような男が「御意」といい、携帯を起動し耳に当てる。
大方指示を出しているのだろう。

「哀れな娘よ。怪盗キッドなんかに関わらなければ、死なずに済んだのにな」

ペッと唾をAに吐き捨てるスネイク。
部下は携帯を耳から離し、ピと画面とタップして「首尾は上々……なのですかね？」と首を傾げる。
そして続ける。

「偽のニュース画面と、キッドの付き人を殺した風の口ぶり……まさか、これだけでキッドの手下が騙されるとは」
「所詮、小娘だ――女と言うものは情には勝てん。小娘なら猶更のこと」

判断を見誤ったのだ、とつづけまたクックッと怪しげに笑う。
どうやら大層気分がいいらしい。


「今宵の奴の獲物はパンドラに近しい……それを我々が手に入れるために小娘の命一人など安いものだ。――それに奴もこの苦しみを味あわせたかったのだ」


「自分の所為で人が死ぬということを」




　＊ ＊

「A、帰ってんのか?」

一仕事を終え、快斗が帰宅。そこには付き人の寺井も一緒だ。

帰っていないようですねと寺井が告げる。
確かに玄関には靴もないし、家の電気はついていないし、気配もない。

「もしかしたらAの事だから何か企んでいるのかもしれねー。気をつけろよジイちゃん」

快斗は警戒するようにトランプ銃を構える。
しかじ寺井さんは「それはどうですかな」と答えた。

「今日のAさんはなんというか……ご気分が悪そうでした。精神的な面ではなく、肉体的な面です。……風邪でもお引きになってたのでは？」
「あいつは不死身なんだぜ。風邪ぐれーでくたばんねーよ」

と快斗は言いつつ、内心焦った。確かに今日のAは変だった。
元気もなかったし活気もなかった。

まさか……なんてことは現時点でも考えていなかった。
外套についたメッセージカードをみるまでは。

第１４３話→←第１４１話

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す