【怪盗キッド】奇術師と道化師 弐

第８８話 ページ46

「あぶねーあぶねー」

俺は白いマントを風に靡かせながら事の一部始終――着陸の瞬間を見守った。
滑走路を創ることはできたが、着陸自体に俺が手伝えることはなかった。
ただ黙って祈っていた、無事着陸できることを。

泥棒が神頼みか、と俺はせせら笑う。
こうして無事着陸できたから笑えるものの、もし、万が一のことがあったら笑えない。
本当に。

さてと、俺はもう少しやることがあるな。
強打した左腕を気にしながら、新たな変装を身に纏った。

　＊ ＊

それから乗客の歓声が収まった後は勿論脱出が始まる。
本当は歓声が止むのを待ってられない異常事態だけども今回は特に爆発の危険性などもなかったし、元から現場に警察がいたのでゆっくりと脱出できた。らしい。

スライド――滑り台を滑って、皆脱出していった。
とっても不謹慎だが、あの滑り台はなかなか面白かった。


さて、快斗さんはどこだろう？
そろそろ解毒が切れそうなので私は一旦、人々の死角に入りしゃがみこんで思案をめぐらした。
まあきっと我が愛(略)にちょっかいかけてるとか、そこら辺が妥当かな。

とりあえず携帯の電源をつけて体が縮むのを待った。
にしてもあの茶髪の女の子気になるな。なんて思いつつ。


　＊ ＊

「じゃあ、すみませんがここに……」

俺は救急隊員に変装し、探偵君のガールフレンドに接近している。
彼女もさっきのお嬢様も命に別状はないらしい。
いくら緊急時とはいえ一端の女子高生に操縦桿を握らせるのにはなんだか後ろめたさがあったし、無事着陸できたことに感謝というか賞賛を述べたいなと感じたので、接近した。

まだこの娘は『俺』だということに気づいてないらしい。
少し鎌かけてみるか。

耳に顔を近づけ囁くように――

「それと、BWHのサイズも……」

と言った。

さらさらと紙に個人情報を書いていた彼女は自らのバストサイズを晒す寸前で、目をハッと見開き、息を呑んだ。
そしてすぐに俺の方を向く。どうやら気づいたようだ。

「なかなかハデな着陸だったぜ」

顔の半分を右手で隠しつつ、そう褒め称えた。
彼女は汗を少しかき、「か……」と驚いていた。

俺は顔をぐっと彼女に近づけ「ではまたいずれどこかで。スリーサイズはその時に……」と紳士的に語りかける。(内容自体は紳士的でないが)

「か……かい」

彼女が俺の『名前』を呼ぶ瞬間にタイミングよく携帯が鳴る。
勿論彼女はそれに反応し、俺から視線を外した。
その隙に俺は埠頭に姿を晦ました。

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