第７４話 ページ32
「じゃあついでにもう一個聞かせて」
私は鷹揚な態度で彼をさらに質問攻めにする。
腹部を殴られ、蹴られたこの姿で『鷹揚』な態度とはまあどう考えても可笑しいのだけれど。
「もしも『工藤新一＝黒羽快斗』じゃなかったらどうするの？」
私にしては、低い声だったと思う。
私にしては、わけのわからない質問をしたと思う。
「はあ？」
彼は特徴的な眉をこれでもかってくらい吊り上げる。
「あ――ああ、そうか俺に吹っ飛ばされたとき頭でも打ったのか？ そんな変な質問お前らしくねーな、バーバラ」
じゃああと何回か殴ってやんよ、と彼は私以上に訳わからない行動に出た。
太い腕が、大きな拳が、私の体中のあちこちに打撃を加える。
抵抗なんてできなそうなので、私はサンドバッグのように殴られ続けた。
みしぃっ、と骨やら何やらが砕ける音。
腕も足もあり得ない方向に歪曲し、だらりと胴体から垂れ下がっていた。
致死量と言われても頷けるくらいの血を一斉に吐き出すと、アイリッシュは攻撃をやめた。
「まあお前には組織に戻ったらきっと拷問かなんかが待ち受けてるだろうから、これは訓練だと思えばいいんじゃねえのか？」
私が吐き出した血を振り払いながら彼は言う。
全く、酷い言い草だ。
「……いや、きっと組織の人間は私に拷問はしない。だって『工藤新一＝黒羽快斗』は違うから」
この酷い有様だというのに、私は流暢に喋った。
アイリッシュは私がまだ喋れるということに驚きを隠せないでいたようだが「何血迷ったことを言ってんだ」と笑った。
勿論、現段階ですでに私の目は見えていないので、笑ったかどうか不明だがそういう風に聞こえた。
そろそろ耳も聞こえなくなりそうだ。
「黒羽快斗はベルモットにも匹敵する変装の名人だよ。今日の工藤新一も黒羽快斗の変装にすぎないっての」
「その変装――特殊メイクは強い力で引っぺがすと取れるんだろう。どうやら今日の彼は素顔だったそうじゃないか。つまり」
間髪入れずに反論してくる彼に最早賞賛したくなった。
しないけど。
「『つまり』を使うのはまだ早い。彼は元から工藤新一と瓜二つだったんだよ。ほらよく言うじゃん？ 世界には自分と似た顔の人が三人いる――的な常套句」
「聞いてて呆れるなァ。それが『工藤新一＝黒羽快斗』を否定する証拠か？」
ドスッと顔面に何かが当たる。
もう見えていないので判断がつかない。
生暖かい液体が額から流れ出した気がする。
もう見えていないから判断できない。
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レモン - 楽しく読ませていただいてます！特に、66の怪盗＆探偵の言い回しが好きです！ (2020年7月30日 19時) (
レス) id: 91878b848e (このIDを非表示/違反報告)
欠月(プロフ) - ありがとうございます！イヲハさん、神ですね！(泣) (2017年4月16日 21時) (レス) id: 3f5aeeaaec (このIDを非表示/違反報告)
イヲハ(プロフ) - 欠月さん» コメントありがとうございます。私はバーボンの方が好きですｗ。赤井さんはちょっと完璧すぎるので…。赤井さん派多いですよね……。この作品にもちょいちょいバーボンを出せるように頑張ります。 (2017年4月16日 21時) (レス) id: da7fe4e2aa (このIDを非表示/違反報告)
欠月(プロフ) - イヲハさんもバーボン好きですか？私は大好きです！でもでも、友達みーんな赤井派なので、イヲハさんがバーボン派で良かったです！ (2017年4月16日 17時) (レス) id: 3f5aeeaaec (このIDを非表示/違反報告)
イヲハ(プロフ) - のんのさん» コメントありがとうございます。そうなんですか……コナン好きは多いと思うのですが汗 楽しんで頂けたら何よりです！ (2017年4月9日 2時) (レス) id: da7fe4e2aa (このIDを非表示/違反報告)
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