第73話 ページ31
「確かに工藤新一と黒羽快斗は似ているけど――別人だっての!」
私が声を荒げながら言うと彼はにぃぃと不気味に笑う。
そして――彼の大きな拳が私の腹部に直撃した。
有体に言えば、殴られた。腹パン。
「かはっ……!」
そのまま背後に吹っ飛び、背中を強打。
ミシっと嫌な音がしたのできっとこれはアバラがイッたかもしれない。
口から鉄の味――血か。
ペッと無様に血を吐く。あとで掃除しよう。
『あとで』があるならだけども。
「証拠を出せよ、証拠。『工藤新一=怪盗キッド』の否定の証拠を」
黙るしかなかった。
実を言うと工藤新一≠怪盗キッドの証拠は幾らでもある。
しかしそれは工藤新一=江戸川コナンの証明になるのだ。
私は欲張りだから。
工藤新一≠怪盗キッドも、工藤新一≠江戸川コナンも証明したいのだ。
「……の?」
私はかすれた声で言う。
「わからないの? ……証拠も何も見た目が全然違うじゃない」
「はあ?」
アイリッシュはあろうことかズカズカと土足で黒羽家に踏み入れて廊下で倒れている私に近づいた。
そして――今度は蹴り飛ばした。
「血まみれの服を着た人間が俺は殺してない、って言うくらい説得力がねーな」
「血まみれじゃなくて赤い絵具を浴びただけなんじゃないの?」
「お話になんねーな」
自分でもそう思う。
思わず「それな」と言いそうになった。
何故だろうか。こんなに絶体絶命なのに、酷く私は冷静だ。
「アイリッシュ、一つ聞かせてよ」
「あ?」
「なんで、どうしてそこまでに『工藤新一』に拘るの?」
別にこれを聞いてどうなるわけではなかったが、便宜上というか物語の都合上というか、まあ聞きたくなったので聞いてみた。
どう考えたって今話題にする話の内容ではないのだが。
アイリッシュは無表情のまま少し首を傾げ「まあいい」と呟いた。
「ジンを失脚させるためだ――お前が大好きなあの冷血漢をな」
「んー」
「工藤新一はどうやら組織の大事な取引現場を見ていたそうじゃないか、なのに射殺せずあの毒を盛った。ピスコの時はためらわず射殺したって言うのによ。
工藤新一を殺せなかったうえに、正体を見抜けなかったって言うなら『あの方』からのジンへの評価は相当下がるだろうなあ」
「つまり敵討ち感覚でジン様を陥れたいんだね、アイリッシュは」
敵討ち感覚、という不適切な言葉にアイリッシュはむっとしたが、特に咎めることなく「そんなところだ」と肯った。
成程、成程。
――頷けねえな。
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レモン - 楽しく読ませていただいてます!特に、66の怪盗&探偵の言い回しが好きです! (2020年7月30日 19時) (レス) id: 91878b848e (このIDを非表示/違反報告)
欠月(プロフ) - ありがとうございます!イヲハさん、神ですね!(泣) (2017年4月16日 21時) (レス) id: 3f5aeeaaec (このIDを非表示/違反報告)
イヲハ(プロフ) - 欠月さん» コメントありがとうございます。私はバーボンの方が好きですw。赤井さんはちょっと完璧すぎるので…。赤井さん派多いですよね……。この作品にもちょいちょいバーボンを出せるように頑張ります。 (2017年4月16日 21時) (レス) id: da7fe4e2aa (このIDを非表示/違反報告)
欠月(プロフ) - イヲハさんもバーボン好きですか?私は大好きです!でもでも、友達みーんな赤井派なので、イヲハさんがバーボン派で良かったです! (2017年4月16日 17時) (レス) id: 3f5aeeaaec (このIDを非表示/違反報告)
イヲハ(プロフ) - のんのさん» コメントありがとうございます。そうなんですか……コナン好きは多いと思うのですが汗 楽しんで頂けたら何よりです! (2017年4月9日 2時) (レス) id: da7fe4e2aa (このIDを非表示/違反報告)
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