【怪盗キッド】奇術師と道化師 弐

第５７話 ページ15

どういう理由であれ、先手を打たないのは快斗にとってはラッキーであった。

『先手必勝』『先んずれば人を制す』。しかしそれはあくまで真剣な勝負での話。
無論この勝負も真剣勝負だが、正確には勝負より騙し合い、化かし合いに近い。
勝つことが優先でなく、相手に「やられた！」と思わせることが最優先なのである。

その為にAはカウンターを、出端挫きを確実に狙っていた。
例え後手に回ろうとも、それでいい。動いた後が大事なのだ。

球技においてシュートを打った後、立ち止まる一流選手は少ないだろう。
それがもしはずれたら次はリバウンドを狙らう。
少し違うがAが考えているのはそんなところだ。

無謀な先手攻撃より、着実な後手攻め。


けれど、このまま沈黙が続けばAはジリ貧になる。
あとこの体でいられるのは持って１５分。
最近は頻繁に解毒をしているのでもしかしたらもう少し短いかもしれない。
それまでにケリをつけなければ、負ける。
身長も体格も対等な今しか彼女に勝機はない。

こうなっては埒が明かない。
理論をだらだらと並べるより、先人の言葉に従おう――ええい先手必勝だ。
考え付いたと同時にAは綺麗な中段の構えを崩し、ナイフを快斗の左手側に投げた。

「！」

先手を狙っていた快斗は少したじろいだものの、右斜めに後退しそれを避けた。
すぐさまAは快斗の右側に回り込む。

一瞬快斗はナイフに気を取られたので反応が遅れたが銃口はしっかり追尾。
テーブルを踏み台にし頭上から降りかかってくる彼女に対し、数発撃ちこんだ。

一枚だけAの頬を掠ったものの、彼女は空中だというのに他はすべて回避し、崩れたバランスを生かして上半身をできる限り捻った。
手を伸ばしラリアットのように自分の腕の内側を快斗の首元めがけ振った。

「はあっ！」

決まっていれば格闘ゲームの様な身のこなしだったが現実はそう上手くいかない。
咄嗟に快斗はその場にしゃがみ込み、回避に成功しAは勢い余って無様に床に激突した。

ズザーッと漫画のよう顔から倒れ込んだAはすぐに立ち上がろうとしたが、ダメだった。
両手をすでに取られていてそのまま自分の顔の前に持ってこられ彼に踏みつけられた。
そして左手で肩のあたりから強く地面に押さえつけられた。

包丁はどこにやったのかな、なんて考えてる余裕は彼女にはない。

彼はうつ伏せのAを顔だけ起こし、額に銃を当て勝ち誇った表情で「チェックメイト」と嗤った。

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