第56話 ページ14
背中を取られた快斗だが動じることなく、Aのいる窓辺を正面として向き直った。
「速いな」快斗は呟いた。「そうですかねえ」Aも呟いた。
お互いがお互いを姉だと思っていて兄だと思っていて妹だと感じていて弟だと感じている。
家族みたいなものだと考えている。
でも――二人は初めて会った時から心の底で感じていたのかもしれない。
月下の奇術師『2代目・怪盗キッド』である黒羽快斗。
北欧の道化師『アンバー・バーバラ』である琥珀A。
大胆不敵で高レベルで魔術に近い奇術を繰り出す彼と。
単純で稚拙だが身体能力が魅せる道化を繰り出す彼女。
初めて彼の奇術を見たとき。初めて彼女の道化を見たとき。
無性に。
『闘ってみたい』と何故だか闘争心を掻き立てられていた。
沈黙を破ったのはAだった。
「私だけ
「俺は銃持ってるけどな」
「まあそう言わさんな。どーうぞ」
Aはどこからともなく包丁を取出し快斗目掛けて乱雑に投擲した。
一歩間違えればショッキングな事件が起きていたかもしれないが投げる方が投げる方なら受け取る方も受け取る方。わざわざ、ご丁寧に左手の人差し指と中指を立ててピースを作りその間で投げられた包丁をキャッチした。右手はトランプ銃の標準をAに合わせて持っている。
右手に銃、左手に包丁の快斗に対し、Aは小さな果物ナイフしかもっていない。
切っ先を真っ直ぐ快斗の喉仏に、柄の部分は腹から握り拳一つ分あけている――すなわち中段の構えである。攻守に優れ、現代剣道の基本の構え。
ややあってじりじりと両者は間合いを詰めた。
飛び道具を持っている快斗が圧倒的に有利と見えているが、実はそうではない。
快斗は先程、沈黙が流れていた間に注意深くこの部屋を目で探っていた。
その時彼は見つけたのだ――天井付近にピアノ線を。
確実に何か仕込んでいる、そう感じて迂闊に手を出せない状況が続いてるのだ。
ただ快斗とて同じ手を二度も喰らう理由も必要もない。
初めて会った時の彼女の壁立ちには驚いたが――もうその手には乗らない。
何かのタイミングであの線を切り裂きたいと思っていた。その為に先手を打ちたい、が、しかし十分な打開策が考え付かずこの状態を維持している。
それに時間稼ぎができるのなら御の字である。
今Aは19歳の体、もし12歳の身長に戻れば今より随分やり易くなるだろう。
そう思いつつ慎重に好機を伺った。
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レモン - 楽しく読ませていただいてます!特に、66の怪盗&探偵の言い回しが好きです! (2020年7月30日 19時) (レス) id: 91878b848e (このIDを非表示/違反報告)
欠月(プロフ) - ありがとうございます!イヲハさん、神ですね!(泣) (2017年4月16日 21時) (レス) id: 3f5aeeaaec (このIDを非表示/違反報告)
イヲハ(プロフ) - 欠月さん» コメントありがとうございます。私はバーボンの方が好きですw。赤井さんはちょっと完璧すぎるので…。赤井さん派多いですよね……。この作品にもちょいちょいバーボンを出せるように頑張ります。 (2017年4月16日 21時) (レス) id: da7fe4e2aa (このIDを非表示/違反報告)
欠月(プロフ) - イヲハさんもバーボン好きですか?私は大好きです!でもでも、友達みーんな赤井派なので、イヲハさんがバーボン派で良かったです! (2017年4月16日 17時) (レス) id: 3f5aeeaaec (このIDを非表示/違反報告)
イヲハ(プロフ) - のんのさん» コメントありがとうございます。そうなんですか……コナン好きは多いと思うのですが汗 楽しんで頂けたら何よりです! (2017年4月9日 2時) (レス) id: da7fe4e2aa (このIDを非表示/違反報告)
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