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「もう少しだけ、話したいんやけど」
そう言った坂田の顔はやけに真剣で、男の子らしかった。
『私もそう思ってた』なんて事は言えなくて、静かに頷いて髪を耳にかける。
すると坂田は玄関の階段の所に腰掛けて、隣をトントンと叩いた。ここに座れ、ということだろう。
私もそこに三角に座って持っていた容器を傍に置くと、先に声を発したのは彼の方からだった。
「久しぶりやんな、こうやって話すの」
『うん』
「まあ…たまに目は合ってたけど、学校で」
坂田のその言葉に手を握る力がこもるのが分かった。
そう、確かに何度も目が合ってて、でもすぐに逸らして。
何だか申し訳なくて、少しの間押し黙る。
それでも何か喋らなくてはと思い、口から出てきたのはあの事だった。
『あの、好きな人いるって、ほんと?』
坂田と目を合わせてそう聞くと、彼はぶわっと顔を赤くして手の甲で口元を隠す。
夕日の光も相まって、彼の顔はとても綺麗で赤らんでいた。
「っな、なんで、それ」
この反応、本当にいるんだ。
彼の燃えるような赤い瞳が揺れているそれはどう見ても恋をしている目で、胸がぎゅうぎゅう締め付けられた。
『……誰、なんですか』
「だ、誰って……」
『桜ちゃん?柴乃ちゃん?』
「ちゃう、ちゃうって!!なんでそうなんねん!!」
坂田は赤い頬のまま頭を両手でがしがしと搔いて「あ"ー……」と声を上げて蹲る。
「なんで、そんな知りたいん」
『知りたいよ、だって』
「だって?」
『……お、お、幼馴染、だし』
顔を上げた彼の瞳とかちりと目が合ってしまって、一瞬言葉が詰まる。
制服のシャツを捲って出しているその腕はちゃんとした男の人の腕で、坂田は私の知らない内に全て成長していたのだ。
私が、ちゃんと見ていなかっただけで。
『…ど、どんな子?』
坂田は少し困ったように目線を逸らした後、躊躇いながら口を開いた。
「かわいい子」
『そんなんじゃ全然分かんないんだけど』
「明るくて、笑顔がかわいい子!!」
彼は吹っ切れたようにそう言って、その後は黙り込んで俯いてしまった。
なんか、かわいい。こんなしおらしい坂田、初めて見た。かわいい。
こんなの恋する女の子じゃないか。
「もうええやろ、この話終わり!!」
『えー』
「そろそろ帰らんと怒られるし、じゃあな」
坂田は立ち上がった後私の頭にぽん、と手を置いて、振り向きもせず出ていった。
彼の耳が赤くなっていたのは、夕日のせいという事にしておこう。
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いろみず(プロフ) - ぐわぁぁぁ(尊死) (2021年6月27日 19時) (レス) id: be92b83ba0 (このIDを非表示/違反報告)
もものせ(プロフ) - ぷちゃさん» 公開しました!!御報告ありがとうございます! (2021年6月19日 0時) (レス) id: 4421996c2f (このIDを非表示/違反報告)
ぷちゃ(プロフ) - コメント失礼します。しまこちゃんのお話の1話目が抜けている気がするのですが、追加していただけないでしょうか、? (2021年6月18日 23時) (レス) id: 09d034a7a0 (このIDを非表示/違反報告)
乃々夏(プロフ) - 100,000hit おめでとうございます!!!すごすぎますね!!! (2021年3月26日 21時) (レス) id: e426f8e368 (このIDを非表示/違反報告)
あい - 1の時初コメした者です…! 久しぶりにこの作品を見つけて読んでみるとやっぱり最高でした…!!更新待ってます! (2021年3月21日 23時) (レス) id: b5c026bc9f (このIDを非表示/違反報告)
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