. ページ27
「またね。うらたくん、Aさん」
ふわりと笑って、彼はその場を後にした。うらたに先程のような目を向けるわけでもなく、私に触れるわけでもなく、ただただ私の言ったことを受け入れて帰ってしまった。
きっと今日はまともに私とは会話ができないのが分かって素直に受け入れたのだろう。というか、それ以外考えられない。
「…ほんと気持ちわりぃ………A、大丈夫か？」
『う、うん、ごめんねうらた』
「なんで謝るんだよ。別にいいって」
さっきとは打って変わって、うらたはいつものように人懐っこい笑顔を見せた。
そんな彼にどこかほっとして、ぺたんと座り込む。
『…よかった、うらたが来てくれて』
「……もっと早く来れば良かったよな、ごめん」
『大丈夫だってば！だってほら、もうこんなに普通に話せるし…』
そう言うとうらたはぱっと私の手首を掴んで、そして小さくため息を吐いた。
そのまま優しく私を抱きしめて背中をさすってくれる。まるで赤子をあやすみたいだ。
「震えてるし。強がんなバカ」
『……うらた、すぐ心配するから』
「心配ぐらい掛けてもいいし、気にされる方がやだ」
うん、うん、と曖昧に返事をして、ただただ彼の体温を感じた。
ぎゅううっ、と心臓が締め付けられるように痛いし、今すぐにわんわん泣いてしまいたかった。
熱い目頭を隠すように彼の肩に顔を押し付けて小さく息を吐き出す。
『うらた、ありがとう』
「…別に」
ぶっきらぼうに返事をしたうらたは、私の手を握って顔を背けた。
さっきまで怖かったのが嘘みたいにぱっと晴れて、私の頭の中はうらたでいっぱいだった。
優しいうらたと、かっこいいうらたと、怒ってるうらたと、不器用なうらたと……その他もろもろ。
『……帰ろっか』
「…もう大丈夫なの？」
『うん、はやく家で休みたいかも』
「……じゃあ送ってく、家の前まで」
私の手を握ったままうらたは立ち上がって歩き出した。
あれ、と思って彼の方を見ても彼が何がを言う様子はない。
けど、うらたの耳が赤くなっているのは分かった。
『…えっと…手繋いでいくの？』
「…別にいいだろ、なんだって」
『他の生徒に見られたら勘違いされそうだし』
「そんな奴らほっとけばいいだろ。俺はお前が心配なの」
不器用にそう呟いて私の手を引っ張っていくうらたに、私はきゅうっと目を細めて思わず微笑んだ。
『ありがと』
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1453人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「歌い手」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
いろみず(プロフ) - ぐわぁぁぁ(尊死) (2021年6月27日 19時) (
レス) id: be92b83ba0 (このIDを非表示/違反報告)
もものせ(プロフ) - ぷちゃさん» 公開しました！！御報告ありがとうございます！ (2021年6月19日 0時) (レス) id: 4421996c2f (このIDを非表示/違反報告)
ぷちゃ(プロフ) - コメント失礼します。しまこちゃんのお話の1話目が抜けている気がするのですが、追加していただけないでしょうか、？ (2021年6月18日 23時) (レス) id: 09d034a7a0 (このIDを非表示/違反報告)
乃々夏(プロフ) - 100,000hit おめでとうございます！！！すごすぎますね！！！ (2021年3月26日 21時) (レス) id: e426f8e368 (このIDを非表示/違反報告)
あい - 1の時初コメした者です…！ 久しぶりにこの作品を見つけて読んでみるとやっぱり最高でした…！！更新待ってます！ (2021年3月21日 23時) (レス) id: b5c026bc9f (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
