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ぱっと目を開けると、目に入ったのは見覚えのある茶髪の彼だった。
さっきまで私を襲おうとしていたあの人の胸ぐらを掴んで、うらたは今まで見たこともないような顔をしていた。
「っふざけんなお前、何してんだよ!!」
「何……って…あれ、もしかして君がうらたくん?」
いつうらたがここに来たのかは分からない。
たまたま通りかかったか、私の声が聞こえたのか。
どちらにせよ、うらたが私の為に怒ってくれているのがどうしようもなく嬉しかった。
「なんで俺の事知ってるんだよ」
「なんでって……ねえ、Aさん?」
私の方を見て含みのある笑いを向ける彼にびくりと身体が跳ねる。
『っし、しらない、』
顔を背けると、うらたはぐっと彼を掴む力を強くした。
彼も少し顔を歪ませてうらたの腕を掴んだ。
「というか、元々はAさんがいい匂い撒き散らしてるから悪いんじゃないの?うらたくんだってそこら辺の野郎共と変わらないでしょ」
「いい匂いって…お前Aの事何だと思ってんだよ」
今にも殴りかかりそうなうらたに思わず私は彼の袖を掴んだ。
『ま、まって、まってうらた、それ以上は……』
「なんでお前が味方すんだよ、さっき襲われかけてただろ」
うらたを止めようとする私を見て、男子生徒は驚いたように目を見開いてぱっと頬を染めた。
何を勘違いしたかは分からないが、熱を孕んだような視線を向けてくる彼が嫌だ。さっきのこともあって寒気がする。
「うらたくん、暴力はやめようよ。彼女もああ言ってる訳だし、」
頬を染めた理由は語らずに、彼は優しくうらたの腕を解かせて笑いかけた。
うらたは腑に落ちないような顔をして、でも先程のように胸ぐらは掴まずに男子生徒を睨んだ。
「…誰だかは知らないけど、お前はもうAには近づくな」
「どうして?俺はAさんが好きなだけだよ」
「っ好きなだけってお前、」
眉を寄せて反応する彼の名前を呼んで服の裾を引っ張ると「わかってる」とだけ返ってくる。
『…………きょ、今日はもう帰って…お願い…』
ぴくりと反応した男子生徒は小さく笑って、そしてうらたの方を見た。
一瞬うらたを"邪魔な物"を見るような目で見た後、上品に口角を上げる。
「君が言うなら、そうしようかな」
そう言って彼は床に下ろしていたスクールバッグを肩にかけた。
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いろみず(プロフ) - ぐわぁぁぁ(尊死) (2021年6月27日 19時) (レス) id: be92b83ba0 (このIDを非表示/違反報告)
もものせ(プロフ) - ぷちゃさん» 公開しました!!御報告ありがとうございます! (2021年6月19日 0時) (レス) id: 4421996c2f (このIDを非表示/違反報告)
ぷちゃ(プロフ) - コメント失礼します。しまこちゃんのお話の1話目が抜けている気がするのですが、追加していただけないでしょうか、? (2021年6月18日 23時) (レス) id: 09d034a7a0 (このIDを非表示/違反報告)
乃々夏(プロフ) - 100,000hit おめでとうございます!!!すごすぎますね!!! (2021年3月26日 21時) (レス) id: e426f8e368 (このIDを非表示/違反報告)
あい - 1の時初コメした者です…! 久しぶりにこの作品を見つけて読んでみるとやっぱり最高でした…!!更新待ってます! (2021年3月21日 23時) (レス) id: b5c026bc9f (このIDを非表示/違反報告)
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