. ページ12
こんな彼に私が出来る事と言ったら、『頑張ってください』と快くお見送りをするだけ。
そんなの、本当は絶対にしたくないけど。
彼の肩に額を押し付けて、私は掠れた声を出した。
『行かないで』
そう一言零すだけで泣いてしまいそう。
こんなこと言ってもうらたさんがここに留まる訳がないのに。
うらたさんは少し困ったように頭をかいて、私の頭を撫でた。髪を指で絡ませるような、そんな撫で方だ。
しばらくの沈黙が続いた後、彼は私の顔を上げさせて頬を両手で包んだ。
努力家な彼の手は傷跡が数個刻まれていて、見ているだけで胸が締め付けられる。
「口付け、してもいい？」
私が頷くと直ぐに彼の顔が近づいてきて、静かに瞼を下ろした。
静まり返った庭に小さなリップ音が響いて、彼の顔が唇から首筋へ降りてくる。
「…肌、真っ白。絹みたいじゃん」
『嫌ですか？』
「全然。むしろそそるけど」
うらたさんは首筋に甘い口付けを落としながら、小さい吐息を零していた。
私に興奮してくれているのだと思うと顔が熱を帯びて赤くなってきた気がした。
「なあ、好きだ、好き、愛してる…」
彼の泣きそうな声を聞いて、心臓が大きく跳ねる。
なんでそんな声出すの、うらたさん。私だって泣きたいのに。
『うらたさん、好きです、いかないで………』
私がそう言うとうらたさんは顔を歪ませて小さく私の名前を読んだ。
あれ、って思った頃にはうらたさんはもう泣いていて、頬に涙を伝わせていた。
宝石のような彼の瞳から零れ落ちる涙は、もうそれはそれは美しくて儚げで。
こんなに綺麗に泣く男の人、初めて見た。
『う、うらたさん、泣かないで、私まで泣いてしまいます……』
彼の背中を摩って焦った様子を見せていると、彼はぽろりと本音を零した。
「いきたくない」
それは、先程の私に対しての答えでもあった。
『行かないで』「俺だって行きたくないよ」と、きっとそう取ってもいいのだろう。
その言葉を始めに、彼の涙は止まることなくぼろぼろと溢れるばかりだ。
「死にたくない、お前ともっと生きていたい、嫌だ」
こんな弱音を吐いた彼は初めてだった。
きっと、今回の戦いで自分が死ぬと分かっているのだろう。
そうでなきゃ、こんなに涙を零して本音をポンポンと話さない。
「お前の事、置いていきたくないのに」
ああもう、そんな顔しないで。
泣くぐらいなら、私と一緒に居てよ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1453人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「歌い手」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
いろみず(プロフ) - ぐわぁぁぁ(尊死) (2021年6月27日 19時) (
レス) id: be92b83ba0 (このIDを非表示/違反報告)
もものせ(プロフ) - ぷちゃさん» 公開しました！！御報告ありがとうございます！ (2021年6月19日 0時) (レス) id: 4421996c2f (このIDを非表示/違反報告)
ぷちゃ(プロフ) - コメント失礼します。しまこちゃんのお話の1話目が抜けている気がするのですが、追加していただけないでしょうか、？ (2021年6月18日 23時) (レス) id: 09d034a7a0 (このIDを非表示/違反報告)
乃々夏(プロフ) - 100,000hit おめでとうございます！！！すごすぎますね！！！ (2021年3月26日 21時) (レス) id: e426f8e368 (このIDを非表示/違反報告)
あい - 1の時初コメした者です…！ 久しぶりにこの作品を見つけて読んでみるとやっぱり最高でした…！！更新待ってます！ (2021年3月21日 23時) (レス) id: b5c026bc9f (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
