. urt ページ11
満月が映える、星一つ無い群青色の空。
時折雲がかかっているのもまた、趣があるような気がする。
視線を空から自分のすぐ隣に落とせば、床に真っ黒な刀を置き私と同じ様に夜空を眺めているうらたさん。
うらたさんの瞳に映った満月は何処か儚げで、見ているだけで泣きたくなるような美しさであった。
彼の瞳越しの月の方が、何百倍も綺麗だ。
「今日は満月なんだな」
少しばかり目を細めて、彼がそう呟いた。
うらたさんは、月が似合う御方だ。
紫陽花の葉のようなあの緑の瞳に月が映った時、それには何とも言えない美しさが現れる。
そしてその瞳が此方に向けられた時、私は生きていて良かったと思える。
『そう、ですね。綺麗です』
本当は月なんかどうでも良いぐらいに哀しくて悔してくて、わあわあと泣いてしまいたいのだけれど。
それで、そのまま二人でこの理不尽な世から逃げ出してしまいたい。
二人で平凡に幸せに暮らしたいのに。
三人ぐらいの子供に囲まれて、私が家事をして、うらたさんが薪とかを取りに行って。
そう、それでいいのに。
「声震えてる。寒い?」
『……少し』
寒いんじゃなくて、泣きそうなんですよ。うらたさん。
そんな簡単な事も言えずに飲み込むと、彼は自分が来ていた白と水色の羽織を私に掛けてくれた。羽織にはうらたさんの温もりが少し残っていて、うらたさんの香りがした。優しい匂いだ。
『うらたさんは、寝ないんですか』
「俺?俺は……いつでも出れるようにしないとだからさ」
『……そうですか』
彼は、全く怖がっていないようだった。むしろ無邪気な笑顔で私に話しかけてくるぐらい。
私としては怖がっていて欲しかった。怖くて戦場になんか行けない、私と一緒に居たい。と言って欲しかった。
正義感が強くて、優しくて、誰よりも努力家な彼はそんな弱音言わないのだろう。
最期ぐらい、弱音吐いてよ。
『うらたさん』
「ん?」
彼は小さく返事をした後、私の方に寄った。肩が触れるぐらいの、近い距離。
もう、あまり優しくしないで。本当に。貴方の愛おしい香りを思い出してしまう。
寂しくなってしまう。
『どうしても戦わなきゃいけないんですよね』
「ああ」
迷いのない声。彼は大将様に尽くすつもりなのだ。
まあ彼は軍の中でも一等強くて刀の技術もあるので、うらたさんが嫌と言ってもお仲間が許さないのかもしれない。
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いろみず(プロフ) - ぐわぁぁぁ(尊死) (2021年6月27日 19時) (レス) id: be92b83ba0 (このIDを非表示/違反報告)
もものせ(プロフ) - ぷちゃさん» 公開しました!!御報告ありがとうございます! (2021年6月19日 0時) (レス) id: 4421996c2f (このIDを非表示/違反報告)
ぷちゃ(プロフ) - コメント失礼します。しまこちゃんのお話の1話目が抜けている気がするのですが、追加していただけないでしょうか、? (2021年6月18日 23時) (レス) id: 09d034a7a0 (このIDを非表示/違反報告)
乃々夏(プロフ) - 100,000hit おめでとうございます!!!すごすぎますね!!! (2021年3月26日 21時) (レス) id: e426f8e368 (このIDを非表示/違反報告)
あい - 1の時初コメした者です…! 久しぶりにこの作品を見つけて読んでみるとやっぱり最高でした…!!更新待ってます! (2021年3月21日 23時) (レス) id: b5c026bc9f (このIDを非表示/違反報告)
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