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「会いたい」


彼女からそんなメッセージが来たのは十二月の雪がしんしんと降り積もるような、そんな日だった。

Aは腐れ縁の幼馴染で、五年間ほど俺は彼女に想いを募らせている。
五年間も片想いとか、もう諦めたら?なんて友達に言われながらも、俺はどうしても彼女が好きだった。

Aじゃないと駄目なんだと分かっていた。

『なんだよ、今更…』

俺の気持ちにも気づかないでへらへらと数十年間過ごしてきたAから「会いたい」だなんて、期待してしまう。

もやもやとする気持ちと期待してしまう気持ちを抑えて、俺はマフラーとコートを着て外へ出た。
『今どこいんの?』と送ると「公園」とだけ返ってくる。

『…くっそ、』

嬉しくなってしまっている自分が嫌で頭を掻く。

俺の方が、ずっとずっと会いたかったのに。
それでもずっとずっと言わずに我慢してたのに。

指先が悴んできて、コートにも雪が散りばめられて、心が凍てつくように寒かった。

『A!!』

近所の公園から見える人影を見て、あいつの名前を叫んだ。

俺と同様マフラーをした彼女が振り返って、俺を見た。

「う、らた」

『お前、なんだよ急に、あんなLINE送ってきて…』

Aは鼻の先がほんのり赤らんでいて、その顔でふにゃりと笑う。
何が嬉しいのか、可笑しいのか、俺には検討もつかない。

彼女が座っていたベンチの隣に座るとスマホの電源を落とすA。
次に彼女が話すのを待っていると、心做しか潤んだ瞳が俺を捉えた。

「会いたかった」

『………俺もだよ』

俺がそう言うとAは少しびっくりしてスカートの裾を握る。

掠れたような、鈴を揺らしたようなその声に耳だけを傾けて、落ちてくる雪を見つめた。

「…ほんと?」

『俺の方が会いたかったよ』

「初めて聞いた、そんなの」

『言ってないし』

ふーん、と少し興味ありげに視線を逸らした彼女を見ずに口を開く。

『お前はなんで会いたかったの?』

「なんでって、会いたかったからだよ」

『なんかあった?』

「別に」

どちらかが喋れば目の前に白い息が舞う。
ホッカイロかなんか持ってくれば良かった、なんて思いながら手のひらを擦る。

Aは俺にほんの少しだけ近づいて、睫毛をゆっくりと揺らした。

「うらたは?なんでわたしに会いたかったの?」

『俺?俺は…』

「最近全然LINEも寄越さないし、もう会いたくないのかなって思ってた」

気まずそうに両手の指を絡ませた彼女は、どこか悲しげだった。

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いろみず(プロフ) - ぐわぁぁぁ(尊死) (2021年6月27日 19時) (レス) id: be92b83ba0 (このIDを非表示/違反報告)
もものせ(プロフ) - ぷちゃさん» 公開しました!!御報告ありがとうございます! (2021年6月19日 0時) (レス) id: 4421996c2f (このIDを非表示/違反報告)
ぷちゃ(プロフ) - コメント失礼します。しまこちゃんのお話の1話目が抜けている気がするのですが、追加していただけないでしょうか、? (2021年6月18日 23時) (レス) id: 09d034a7a0 (このIDを非表示/違反報告)
乃々夏(プロフ) - 100,000hit おめでとうございます!!!すごすぎますね!!! (2021年3月26日 21時) (レス) id: e426f8e368 (このIDを非表示/違反報告)
あい - 1の時初コメした者です…! 久しぶりにこの作品を見つけて読んでみるとやっぱり最高でした…!!更新待ってます! (2021年3月21日 23時) (レス) id: b5c026bc9f (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:もものせ | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2020年10月5日 1時

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