花物語【稲荷崎】 (ページ8)

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角名倫太郎とイベリスページ8

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特に変わりもない平日。

部活がない日の放課後に、俺は先生から頼まれた雑務をこなすべく、下校時間をギリギリ過ぎた時間まで自分の教室にいた。

職員室まで終わったものを運び終えると、はぁ、と１つ大きな溜め息をついて靴箱へ向かう。

チラッと窓の外を見ると、外はもう随分真っ暗でどんよりとした曇り空が広がっていた。

「(こんなに遅くなるとか…最悪)」

そう思いながら長い廊下を歩いていると、少し先に艶のある髪の毛を揺らしながら歩いている女子生徒の後ろ姿があることに気づいた。

あの綺麗な後ろ姿、溢れ出るような上品さ。もしかして…

「……Aさん？」

しまった、と思った。俺はあまり北さんの彼女であるAAさんと関わりがないが、侑たちがAさんと呼ぶため、思わずその名を口にしてしまった。

咄嗟に口を抑えるも遅かったようで、少し先にいた彼女はこちらをくるりと振り返って、少しずつ近づいてきた。

『あ、…角名くん、よな？』

薄暗い廊下のなか、俺の顔を下から少し覗き込んで、不安そうに首を傾げてくる。

…俺のこと、覚えてたんだ。

「…そう、です。Aさんですよね？」

『覚えとってくれたん？嬉しいわ』

そう言って、へへ、と照れたように笑うAさん。

……なんか想像と違った。北さんの彼女っていうからもっと無口で大人しい人かと。思ってたよりも話しやすい…？

『角名くんはこんな遅い時間までどしたん？』

「先生から雑用押し付けられました」

『あはは、そうなんや。大変やな〜』

「Aさんこそ、こんな時間にどうしたんですか？」

『私も同じような感じやわ』

お互い大変ですね、なんて言って笑い合いながら、自然と横並びになりながら靴箱へ向かう。

靴に履きかえ外に出てみると、先程よりもより一層濃くなった空の黒色。

こんな真っ暗な中、彼女を一人で帰らせても大丈夫だろうか。…それに彼女の身に何かあったら、北さんに殺されるのでは。

『ほなまた、気をつけて帰ってな』

そう言って、一人で校門を抜けて歩き始めた彼女の腕をパシッと掴む。

彼女の驚いてまん丸にさせた瞳と目が合う。

「送っていきます。家、どこですか？」

戸惑う彼女の腕を引いて、半ば強引に歩き始める。

彼女を送るのは、ただの親切心と北さんへの少しの恐れ。

別に、少し興味が湧いたとか、もう少し話してみたいとか、…そういうのではない、はずだ。

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