宮治とエリンジウム ページ4
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ある日の部活の練習終わり。
部室でみんなで着替えていると、北さんが荷物の中からタッパーに入れられたレモンのはちみつ漬けを取り出して中央の長いベンチに、ことり、と置いた。
「差し入れや、みんな食べてええで」
北さんが差し入れとか珍しいな、と思いつつ、周りのみんなのように、あざすと感謝を述べながら、レモンのはちみつ漬けに手を伸ばす。
え、うま。
パクッと一口で食べると、今まで食べたどのレモンのはちみつ漬けよりも美味しくて。周りもみんなうまいうまい、と騒いでいるようだった。
チラッと北さんを見ると、みんなの様子を見て、心做しか嬉しそうな、誇らしそうな表情をしている。
「北さんが作りはったんですか?」
「いや、…Aが作ってくれてん」
そう言って、愛おしそうな、嬉しそうな表情になる北さん。
…AAさん。最近紹介された北さんの彼女さん。北さんに彼女がおったことにまず驚いたが、綺麗な人やったな、という印象だった。
今度すれ違ったらお礼でも言うとこかな、と思ってもう1つ手を伸ばして、レモンを口の中に放った。
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翌日、廊下を歩いていると、前からAさんがこちらに向かってきているのが見えた。
いつものように、「こんちは」と軽く挨拶をすると、彼女も優しい笑みを浮かべて、軽く会釈してくれる。
そのまま通り過ぎようとして、あ、と短い声を発し、彼女を引き止めた。
「差し入れ、むっちゃうまかったです」
『!ほんま?よかったぁ』
呼び止められて、不思議そうな顔をしていたが、素直に感想を伝えると、表情が綻んで花が咲くような笑顔を見せてくれた。
綺麗な見た目とは相反して、少女のようにふわりと笑う彼女に、かわええなぁ、なんて思いつつ、目の前の笑顔に見蕩れる。
「また、食いたいです」
彼氏でもないのに少し欲張りすぎたやろか。けどあの美味しい味が忘れられへん。願わくばもう何度でも食べたい。
彼女は少し驚いた顔をした後に、『ふふ、もちろん』とまた笑ってくれた。
『治くんはお菓子とか好きなん?』
「好きっす。てか飯全部が好きっていうか」
『そりゃすごいな〜。…あ、私よく趣味でお菓子作りすんねんけど、もし良かったら味見係せえへん?』
思いもよらないAさんからの提案に「!喜んで!!」と食いつくように返事をしてしまった。
そこから俺とAさんの、味見係と作り手という変な関係が始まることになった。
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作者名:たみ | 作成日時:2021年10月3日 20時