すとーんずの宝石

◎ ピンクと宝石 - 2 ページ21

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「思い切り抱き寄せられると心 あなたで良かったと歌うの ─── 」



その日俺は運悪く稽古場に忘れ物をしてしまって、慌てて戻ると部屋の中から歌声が聞こえてきた。

KinKi Kids さんの 愛のかたまり だ。事務所のタレントなら大体皆知ってるような名曲。

でも部屋の中から聞こえてくる愛のかたまりは聴きなれた先輩達の声ではなく、明らかに女性の声。

あの子だ。ジャニーズ初の女の子。一人で伸び伸びと歌う声もその姿もとても綺麗で上手で思わず聴き入ってしまう。



「クリスマスなんて要らないくらい 日々が愛のか、たま……」


「？……あっ」


「……」



歌声が止まったと思ったら、女の子がこっちを見ていた。やべ、気付かれた。



「ご、ごめん、忘れ物を…」


「…これですか？」



女の子はすっと俺の財布を差し出してきた。無表情で。怖い。



「へっ？あ、うん。…なんで分かったの？」


「たまたま見つけたんです。まだ練習しようと思ってたし、もし取りに来たら渡そうと思って。そろそろ帰ろうとしてましたけど」


「そっか、ありがとう！」


「いえ、…じゃあ、私帰ります」


「まって、連絡先交換しない？今度お礼する」


「私スマホ持ってないんです」


「今君が触ってるそれ、スマホって言うんだけどな」


「…」


「じゃあ名前は？家どこ？あ、何歳？」



ジャニーズ初の女の子は噂とはだいぶ違った。顔はめちゃめちゃ可愛くて、髪はロングで、歌がとっても上手い。あ、愛想が悪いところは噂通り。

まぁ、噂の真相がわかったからと言って、連絡先は教えてくれないし、名前も家も年齢もさっきから全然答えてくれないし、 ジャニーズ初の女の子の得体はまだまだ知れないけど。

でも今はもっと知りたいと思う。女ということに囚われてばかりで彼女の才能に気付かない人が沢山いることが勿体ないなぁと思った。



「おはよう！東雲って言うんだね、樹から聞いたよ」


「そうですか」


「俺達同い年だよ、これも樹から聞いた！ねぇ、タメにしてよ」


「私、後輩なので無理です」


「でも同い年だよ」


「でも後輩なので」


「……」


「……」



忘れ物事件の次の日からとにかく毎日話しかけて、少しずつ仲良くなれた…と思う。
俺を見つけると笑顔で寄ってくるAが可愛くて仕方ない。どうしよ可愛い。無理。



「A、これからもよろしくね」



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