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山本くんからLINEが来たのを合図に、私は先程と同じカフェへと向かう。
ラフすぎた格好からは少し着替えた。
今更、と思われるかもしれないけれど、さすがに人と会うことが分かっていれば、私だって多少なりとちゃんとした格好はしたいものだ。
同じコーヒーに、同じ席。同じ本を広げて、彼を待つ。イヤホンだけは外しておいた。
来慣れたカフェなのに、どこか落ち着かない。
私が山本くんの事を待っているなんて…不思議だった。
少し前まで、知り合いでもなんでもなかったのに、人生って本当に何が起こるかわからないなと、つくづく感じてしまう。
「Aさん、お待たせ!」
本から視線を上げると、お馴染みのかわいい笑顔の山本くんがそこにいる。
「ううん、私も今来たところ。お疲れ様でした。」
「うん、もうお腹空いちゃった〜〜Aさん、何系が食べたい?嫌いな食べ物ある?」
あのお店はどうだとか、このお店が良さそうだとか、なんでもないことを話して歩いていると
本当に山本くんと友達になったんだなあと、今更ながら実感が湧いてくる。
そもそもの話だが、お休みの日に誰かとご飯に出かけていることも久しぶりで、
なんならそれが男の人…ということになると、いつ振りだかはもう思い出せない。
それだけ仕事に全振りしてきた(というか、仕事くらいしかなかっただけだけど)私だった。
頑張りが報われることもあるんだな、とこの期間さんざん振り回してくれた神様だったけど、
いい方向でオチをつけてくれたことに感謝した。事故にあいそうとか、思ってごめんなさい。
「Aさん、どうしたの?」
「あ…えっ?」
「さっきから百面相だよ。」
アハハッと山本くんが声を上げて笑う。
「いや、人生何があるかわからないな…と思って。」
「あー…確かに?そういえば、すごい偶然だよね、そもそもAさんの家と、オフィスが近いってこともそうだし…」
それだけじゃない。あの日いつもより帰りが遅くなったこと、タクシーに乗ろうと思ったこと、折りたたみ傘を持っていたこと。
偶然はない、あるのは必然だけ、なんて言葉を思い出してしまった自分にはそっと蓋をしておいた。
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作者名:湊 | 作成日時:2019年11月6日 18時