12話 ページ13
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アルトの声は、そこで一度言葉を切った。「ですが？ 何だよ」とガラガラ声が先を促す。
「もっと速く効くはずなんです」
「あん？」
「この世界最大の生物であるウォーラーホエールでさえ5分も持たない強力な毒薬です。……でも彼女は、5分どころか1時間以上持ちましたし、それに、倒れるでも体調を崩すでもなく、普通に眠っただけでした」
「オメーが薬の量を間違えた＿＿ってのはねーか。ロギアスだしな」
「それに、気になるのは矢張り、あの吸血鬼です。アレは、二人きりになったが最期獲物が死ぬまで血を吸いとる化け物だ。それなのに、彼女は全くの無傷だったのでしょう？」
「さてなぁ。アレの機嫌が良かったのか、それか落ち着いてたんじゃねぇの？ 目の色が青くなってたし」
「人戻りですか……アレの魂は最早穢れきっていると認識していましたが、未だ人が残っていたとは。化け物とはいえ哀れですね」
「そうだな。あぁはなりたくねぇな。死んでもな」
「全くです。……さて、彼女の様子を見てみましょうか。もしかしたら、信じられないほど鈍いだけだったかもしれませんし」
その言葉と共に、ピタリと耳を押し当てていたドアのノブがガチャリと回った。ひゅっと息を吸い込んで、咄嗟にベッドに戻ろうとして＿＿間に合わなかった。仕方なく、開け放たれた扉の後ろ、壁との間に入って、張り付いて、極力息を殺す。
数秒間しんとした時間が続き、やがて「……どこにいった」という低い声が聞こえた。
「やっぱ死刑囚なんじゃね？ 脱走はお手のもの、ってか？」
「笑い事じゃない。……顔を見られた。ロムルス、これはあの女を連れてきたお前の責任でもある。直ぐに探し出して殺せ」
「へいへい、了解。______逃げられると思ってんのかねぇ」
氷のように冷たい声が、段々と遠ざかっていく。最後に物凄い勢いで扉が閉じられて、バタン！ という大きな音が鳴り響いた。肋骨を突き破って出てくるんじゃないかというほど暴れている心臓のまま、へたりとそこに座り込む。
……正直、二人組の話はほとんどがよくわからないものだった。けれど、わからないなりにわかったこともある。
一つ、私をここまで連れてきて、そして先ほどまで話を聞いてくれていたあの二人はぶるーくときりやんなどという名前の人ではない。
二つ、このままここにいたら確実に殺される。
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作者名：ホロスコープ | 作成日時：2022年5月4日 16時
