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あの人は立ち上がると、こちらを少し振り返って口を開く。それは大層悲しそうな顔をしていた。泣きたいのはこちらなのに。あの人の中の私が少しでも良く在るために口角を上げて話を聞こうとした。
「加賀美くん、絶対忘れられないとか思ってるでしょ」
「そんな加賀美くんの為に魔法をかけてあげるよ、本当に好きだからさ」
「＿＿＿＿」
蒸気を吐き出すような音を鳴らして扉が閉まる。彼女との、本当の別れだった。電車は私の気持ちを察してくれないまま、消えていった。本当にあっけない終わり方だった。
あの日から私は、少しずつ準備を進めた。この街から出ていくための準備。よく考えてみてしまえば、彼女がいないこの街にいる意味なんてなかったから。大半の物を捨てた、仕事も辞めた、未練を無くした。だから、これで終わり。
今は彼女が消えたあの時の列車とほとんど変わらないそれに揺らされている。この選択肢を選んでしまった愚かな私を彼女は笑って許してくれるのだろうか。だってしょうがない事だから、私には貴女しか愛せない。貴女を忘れて、貴女以外の人を愛することなんてできない。
だから、貴女の後を追うことをどうか許して欲しい。
海が見えるこの場所は死んでしまうのに最適であった。人が来なくて、飛び降りてしまえる場所があって、景色が美しい。
彼女のもう長くないが寿命であったのか、はたまたこれを決行する時間であったのかは分からない。しかし、今の私には夕陽に照らされて顔の見えない貴女が見えていた。
「……そこに居たんですか、Aさん」
「探したんですよ、本当に」
あの街には私達はいない。何があろうと、もう戻ってくることは無い。
グッドモーニング＿シヲン
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作者名：翠霞 | 作者ホームページ：https://twitter.com/Sui_Ka_zr
作成日時：2021年12月2日 21時
