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いくら誰でも見えるようになっても、元々排他的なのだから天使というのは立場が弱くなっていた。神の使いと呼ばれていた昔よりも、人間が天使の事をファンタジーと感じなくなったことや宗教的信仰心が薄れていったのもあるだろう。少なくとも、昔より合理的にはなったのかもしれない。
そんな中で天使が見える人間というのはかなり特殊な例である。大昔と比べれば視認性は向上しているが、それでも信仰の余地のある者や純粋な者、天使を信じるものにしかこの姿は見せられなかった。そんな世界で彼女は間違いなく私のことを見て驚いていたのだから、恐らくはそういう事情があるのかもしれない。何も知らない人だったけれど、悪くないなとは思う。そしてこの時、あの話を思い出したのだ。
私はどうやら狙ったものは何が何でも離したくないらしい。つまりそれは、神隠しがいつか行われるであろうという意味も含んでいた。
それから彼女のことを調べ上げ、彼女とできる限りの接点を得るようにした。彼女は控えめな性格で、少々怯えていたけれど段々とこちらに気を許すようになっていた。恋は盲目と言うべきなのか、それとも近づくことで知ることができることもあると言うべきなのか。彼女のいいところを見つけることのできるその瞬間は、間違いなく幸福であった。
このままだったら神隠しもいらないのだろうか。そう思っていたけれど、私の恋というのはどうやらそこまで甘いものではなかったらしい。
彼女はある日を境に、こちらへ現れなくなった。体調が悪いから、らしい。
理由はわからない。けれど、心当たりだけはあった。彼女に対して時折囁かれるような薄暗い噂。彼女から真偽を聞くのは少し忍びなくて黙っていたこと。最初の自分にとっては信じられないけれど、今の私ならかえって信じたいこと。
もし彼女が天使であれば、それは_____
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作者名:翠霞 | 作者ホームページ:https://twitter.com/Sui_Ka_zr
作成日時:2021年12月2日 21時