◆Four ページ11
君は突然現れた。家の浴槽に、揺蕩いながら現れた。信じたくはなかった、信じることが出来なかった。けれど、よく見知った顔とあの日着ていた衣装が間違いなく彼女ということを表していた。
そもそも彼女が消えてしまったあの日は、2人で海に行っていた。好奇心旺盛で天真爛漫な彼女は、その日も当たり前のように服を着たまま沖の方へ歩いていた。私は水着がある訳でもなかったので、膝丈で満足していた。潮の流れは少しだけ強くて、持ってかれる程ではなかったけれど彼女が心配になるほどの流れではあった。だから、近づいて浜まで戻さなかった私が悪いのだろう。太陽が沈んでいく様を、腰まで沈めて眺める彼女。その体が、勢いよく潮に巻き込まれた。慌てて彼女のいた所まで走ろうとするけれど陸のように早く動くことは出来なくて、結局着いた頃には彼女は何処にだっていなかった。
それから彼女が見つかったのは1週間後のこと、あの日に来ていた場所から少し離れていたところで打ち上げられていた所を発見されたらしい。しかし、その時にはもう呼吸は完全にしていなかった。
彼女の入った壺は、少し冷たくて。中身は灰で少し煤けながらも綺麗な白を多く残していた。それでも棺の中で眠っていた彼女のことを考えると随分と残っていたが、それでもいくつかの骨は生前より小さく、脆くなっていた。
葬儀場にて箸で掴んだ時のがり、という少し削れた音と頂いた骨粉の入った星の砂を入れたような瓶は一生忘れることは無いだろう。
つまりそう、彼女が戻ってくるのは人魚だとしてもありえないことだった。それでも目の前には彼女が居たのだから、私にはあれを確認してまで彼女の死を確かめようという気にはなれなかった。
だからどうか、彼女がまた水死体に戻るまで。私達にあの存在を思い出させませんように。今はそれまで、この生活に安寧を。
水死体にもどらないで
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作者名:翠霞 | 作者ホームページ:https://twitter.com/Sui_Ka_zr
作成日時:2021年12月2日 21時