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京「まっ...て、」
俺は先を歩きだそうとするAの手を再び掴んだ。
余程驚いたのか、振り返ったAの瞳が大きく揺らいだのが見えた。
逝かせない。
逝かせたくない。
でも、それを伝えるにはなんと言えばいいのか分からない。
そのままストレートになんて言う勇気なんて持ち合わせていない。
”死んでほしくないこと”を遠回しに伝える言葉を、俺はなんとか考えた。
そこで1つの言葉が見つかった。
言いたくて、言えなかった言葉
今、言わないときっと俺が一生後悔する言葉
でも言っても後悔するであろう言葉
俺は大きく息を吐いて、何を考えているのか分からないAの表情をまっすぐに見る。
京「...好きだよ」
『え？』
Aがアホみたいな声を出して、シリアス気味だった雰囲気は一気に吹き飛んだ。
そりゃそうだろう。
Aは驚いたような顔をして俺と掴まれた手を交互にみた。
どれくらい、時間が経っただろう。
Aは突然、困ったように笑った。
その顔を見て、しまったと思う。
間違った。
俺はAを困らせた。
俺がAに告白をしたということは名前のなかった俺たちの関係に名前がついてしまうことを意味する。
それに、Aは俺に恋愛感情を抱いていない。
俺はあくまでAの”退屈しのぎ”に過ぎないのだ。
長い長い沈黙の末、Aがやっと口を開いた。
『...ごめんね。』
その言葉は俺の胸の奥の奥に、ナイフとなって切り込まれた。
その傷は今までにしたどんな怪我よりも痛い。
Aは俺の手をそっと離して、軽く俺の頬にキスをした。
...振ったくせになんでキスなんてするんだよ。
『...じゃあばいばい』
明日はAに会えるのか。
Aは明日を生きられるのか。
今の「ばいばい」は一生ものなのか、それとも今日1日限りのものなのか。
振られた俺には関係がない。
きっとAが明日生きていても死んでも俺と話すのは多分今日が最後だろう。
ゆっくりと彼女の足音が遠ざかっていく。
...告白なんて、しなければよかった。
初めからずっと分かっていたはずなのに。
知っていたはずなのに。
もう聞こえないあの足音
俺はその場に立ち尽くすことしか出来なかった。
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作者名：兎月うさぎ | 作成日時：2021年2月19日 22時
