A.ー ページ30
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目を伏せて､また考え込む｡
それに気づいたのか横山くんが覗きこんできた｡
「それに､“これ”と“この方法”も憐を守るために大切なもんや｡これ以上憐が傷つかんように｡人前に立って､いい意味でも悪い意味でも注目を浴びる俺らができる最大限の盾や｡」
トントンっと俺の“顔全体を隠している仮面”をノックする横山くんを見つめる｡
狭い狭い視界から見える断片的な横山くんじゃなくて､ちゃんと横山くん自身を見たくて仮面を取った｡
「分かってるよ､俺を守るのに必要なこと｡でも､なにわ男子を見てると気持ちが生き急いじゃう｡」
思いが溢れて､行き場のない苦しみをぎゅっと持っている仮面に渡す｡
彼らの笑顔を､彼らの明るさを､彼らの元気を見ていると自分が虚しくなる｡
自分のファンに顔も声も公表せず､ファンとの交流は文字でのみ｡しかも､えらいことに自分のファンの総称は『レター』らしい｡文字で気持ちを伝えるから手紙を英語でレター､か｡皮肉やな...｡
ぐちゃぐちゃしてる気持ちがまた顔に表れたんか横山くんにもう一度わしゃわしゃと乱雑に撫でられる｡
撫でるのハマってるん？俺は犬ちゃうけど｡
「大丈夫､お前のファンはお前なりに楽しませればええんや｡憐のダンスの評判知っとる？とんでもないぐらい高いんよ？じゃないとバックダンサーとしての仕事なんかこおへん！」
ほっぺをギュってして､顔を無理矢理あげてくる｡そんなことされたら目を合わさざるを得ない｡
真っ直ぐ俺のことを見透かしてるような目をしている横山くんをただ黙って見つめる｡
「憐､あんな？ファンはお前の事情を知らんくても､いつかそれを少しでも知れる日を静かに待っとる｡なんで？って疑問の声はあっても､待ってる人がほとんどやねん｡
そんな人達に憐の身勝手な気持ちで教えるんはちゃうとか思わん？
いつか生き急ぐんやなくて､本当に公表したいって思たら俺らを頼ればええんよ｡もちろん､そうやなくても頼ってな？」
俺の持っていた仮面を取り､俺につけてくれる横山くんはこっちが照れくさくなるぐらい優しい顔をしているのが狭い視界からでも分かった｡そういうのはファンに見せろやと可愛くない照れ隠しをしてしまう｡
それじゃ仕事あるから､と颯爽に去っていく横山くんに小さく感謝の言葉を伝えて止めていた歩みを一歩進めていく｡
不思議とさっきよりかも足が軽く感じた｡
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作者名：雨水 | 作成日時：2023年3月27日 20時
