気まぐれボイジャー【豪炎寺修也】第八章 (ページ29)

今日:13 hit、昨日:5 hit、合計:97,595 hit

２９５話#　懐かしい味ページ29

～豪炎寺side～

瞼を開けると、夏の陽気をもった日差しが部屋の中を照らしていた。

甘い香りが鼻をくすぐる。

体を起こして、タオルケットを丁寧に畳んでいると。

風丸「あ、豪炎寺」

テーブルの席に座っていた風丸に呼ばれた。

風丸の隣にはAが座っている。

A「おはよう」

修也「おはよう。早いな」

A「習慣。朝ご飯食べるでしょ」

風丸「来いよ」

テーブルには、スコーンがたくさん盛られた大きいお皿。

そして白いものが入っているグラスが５つ並んでいた。

風丸の隣に腰かける。

修也「これは？」

A「ヨーグルト。下にコーンフレークも入ってる。ジャム、アプリコットがおススメだけど食べれる？」

修也「ああ」

A「おっけ」

ヨーグルトが入っているガラスに、スプーンですくったジャムを混ぜ入れる。

長めの前髪からのぞく彼女の伏せられたまつ毛に、一瞬見入ってしまった。

A「あたしたちもまだ食べ始めたばっかだから」

風丸「ヒロトと緑川、まだ起きないのな」

A「そのうち起きるでしょ。はい、できあがり(微笑)」

修也「ありがとう」

Aからヨーグルトを受け取る瞬間、少しだけ指が触れた。

気にせずに自分の席へとそれを置いて、スプーンを手にした。

風丸「豪炎寺、このスコーン美味しいぞ。オレンジチョコ味だって」

A「世界大会の時、イナズマジャパンのみんなに1回これを差し入れしたんだよね。あの時風丸がすごく気に入ってくれたって修也が言ってたのを、思い出して」

風丸「ほんとに久しぶりだよ、これ。毎朝食べたいぐらいだ」

ココア色に染まったスコーンには、細かく刻まれたオレンジピールがところどころに埋まっている。

そうだ。確かに、俺もこのスコーンの味を知っている。

Aのお手製。

懐かしいな。

1つ手に取って齧ると、濃厚な味にオレンジの酸味が混ざってきた。

修也「...うまいな」

A「ありがと(微笑)」

修也「！」

飾らない彼女の微笑み。

それを目の当たりにすると...俺の心も温まる。

俺は昨夜ヒロトに打ち明けられた話が気になって仕方がない。

この微笑みを奪ってしまうような何かが、俺の知らない所で起こっていた。

...ただ、俺は何も知らされていないんだ。