6時間目 告白 ページ7
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「…………俺は、お前のことを嫌いだと言った覚えは一度もない」
その言葉に、思わず間の抜けた声と共に先生から頂いた紅茶を落としてしまう。
本当に何を言っているんだこいつは。やっぱり今日はどこかがおかしい気がする。
こいつこそ保健室のお世話になるべきじゃないだろうか。
「…………だから、なに。
言わないだけで、心の中では思ってるから察しろよって話?」
「……違う、文脈で分かるだろう」
――――いや、分かる。分かるけど、だってそんなことあり得ない。
思わず奴の顔を見る。その顔は真剣そのものだった。
まあ奴が気の抜けた顔を見せたことなど今まで一度もなかったが。
「え、なに……怖、お前、なに……」
「…………別に、嫌いじゃない」
奴が、言いながら私の落とした紅茶を拾う。
――――奴は”嫌いじゃない”と言った。何が?私のことがだ。
”ん、”なんて言いながら、奴は私に紅茶を手渡す。
相変わらず眉間に皴は寄っているし目つきも悪い。
本当にこれで私のことが嫌いじゃないのか。こんな態度を取っておいて?
…………でも奴が今こうして謝罪をしに来たのも事実なのだ。
あんなに罪悪感を滲ませた表情をする奴は今まで見たことがない。
――――とにかく、混乱していた。
頭の中でぐるぐると様々な考えがよぎる。
……だからだろうか。考える前に先に言葉が出ていた。
「…………お前、私のこと好きなの?」
ぴしり、という音が聞こえそうなほど、あからさまに奴の動きが止まる。
奴の持つ紅茶のペットボトルからは、あの特有の潰れる音が聞こえた。
元々眉間によってた皴が更による。”調子に乗るな”ということだろうか。
嫌いじゃないだけでお前の事なんて好きでもなんともないとかそういう、
「…………だったら、どうするんだ」
「え、」
「俺が、お前のことを好きだったら、お前はどうするんだ」
どくりと心臓が音を立てる。
それはときめいたとかそういう意味のものではなくて、
”やってしまった”というか、選択肢を間違えたときのような、嫌な高鳴り。
「……嫌いな男から好かれていることを知って、お前に何のメリットがある」
ひゅ、と思わず息が漏れる。
それは、犬猿の仲とまで言われていた男に恋慕の感情を抱かれていたという衝撃からか。
それともこんなことを言わせてしまった罪悪感からか。
静寂に包まれた保健室には、下校を伝えるチャイムだけが虚しく響いていた。
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綾木 麗(プロフ) - めっっっちゃ好きです(語彙力) (2022年11月6日 23時) (レス) id: 5a575a9999 (このIDを非表示/違反報告)
ぴのいちご(プロフ) - 夜澄ソラさん» お褒めの言葉頂き嬉しいです……!元々自己満足で自分の好きな物を詰め込んだだけのものなので好き嫌いは別れても致し方ないのかななんて思います、コメントほんとにとっても嬉しいです、ありがとうございます! (2021年1月5日 23時) (レス) id: 30f259b2ae (このIDを非表示/違反報告)
ぴのいちご(プロフ) - 颯貴さん» 初めて長編小説を書かせて頂いたのですがそう言っていただけてとても嬉しいです……!これからもゆるゆる更新させて頂きますのでよろしくお願い致します……! (2021年1月5日 23時) (レス) id: 30f259b2ae (このIDを非表示/違反報告)
颯貴(プロフ) - 夜澄ソラさん» ほんとにそれ。(あっFF外から失礼します)なんでこんな低評価なん?理解できないんだけど (2021年1月5日 23時) (レス) id: b9ddb7cad4 (このIDを非表示/違反報告)
夜澄ソラ(プロフ) - 一気に読んでしまいました。こんなに評価が低いのが理解できないくらい面白かったです……!続きも楽しみにしています! (2021年1月5日 23時) (レス) id: 1c9f7aabed (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ぴのいちご | 作成日時:2021年1月3日 12時