犬猿の仲から恋人に至るまでのはなし。【オリジナル】

9時間目　邂逅 ページ10

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「…………白川奏多は先程図書室へ向かわれたので恐らく今は馬鹿みたいに自主学習をしていることと思いますそれでは私はこれで､」

「え､え､待って待って」



ノンブレスで言い放ちその場を去ろうとしたのだが
男に腕を掴まれ､それは叶わなかった｡



「ごめんいきなり掴んで､あの､貴女カナタと同じクラスなんすか､」

「そうですねでもほんとそれだけの関係っていうかもうほんと言っちゃえば他人同然で」

「え､違ったらすみません､あの､もしかして貴女佐藤サン？」



ひゅ､と短い息が漏れ出る｡

知らない男から私の名前が紡がれたことに驚きが隠せず､
思わず「なんで､」なんて問いかけてしまう｡
そんな私とは反対に目の前の男はぱっと笑顔になった｡



「え､ほんとに？わ､いつもカナタから話聞いてるよ」

「ええ……､」



動揺する私を尻目に目の前の男は『本物だ』なんて言いながら私の肩をぽんぽん叩く｡



「カナタいっつも言ってるよ､『同じ委員の友人とどう話したらいいか分からない』って
　だから共通の話題とか振ってみれば？ってアドバイスしたんだけど､彼奴学校でどう？」

「アー……」



あの面で一丁前に友人に恋愛相談してんじゃねえと思うと同時に､
彼から賜ったアドバイスは最悪の方向に働いていたのだと悟った｡

嗚呼､成程､成程な｡
奴がクソみたいな難癖をつけて私に関わってくる理由も､
あの意味の分からない点数勝負も何となく分かってきた｡

あれは奴なりの世間話だったのだろう｡
奴の頭には勉強しかないから､共通の話題と言われたときにそれしか浮かばなかったのか｡

それに自身の終わった性格も相まって
あんな偏屈コミュ障モンスターが生まれてしまったのだろう｡悲しい事件であった｡



「正直なところ､彼奴に対する好感度は地に落ちていますが」

「ああ……」

「まあ､でもこの学校で奴と一番関わってるのは私なんじゃないすかね
　何だかんだで意思疎通はできるんで」




私がそう言えば目の前の男は再びにこりと笑う｡
ああ､この人の愛想の良さが､表情筋が1mmでも奴にあれば少しは変わったのだろうな｡



「……確かにカナタは頑固なとこあるし口も悪いんだけどさぁ､
　悪い奴じゃないんだよ､そこだけは頭の片隅に入れてくれたら嬉しいなあ」




目の前で少し寂しそうに笑う男のその姿に､何故か私は目を逸らしてしまった｡



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