呪ワレシ月下獣 ページ22
何かをブツブツと呟きながら、目から血を流す敦君がナオミと春野さんに飛びかかった。
そのまま、虎化させた腕を思いっきり振り下ろす。
「きゃぁっ！」
「“room”…【シャンブルズ】！」
柱が崩れ、瓦礫が落ちた。
ナオミと春野さんの居た場所に、小石が２つ落ちた。悠真の能力だ。
間一髪……あわや大惨事だった。
「邪魔だ、離れてろ。」
「はっ、はい…！」
『……私の後ろへ下がって。』
「………人…を…救わぬ者に……価値、など………人を、救わぬ者に、価値など………！！」
敦君が、今度はこちらへ勢い良くかかってきた。
異能で咲かせた腕で足を掴み、床へと引きずり倒す。
『敦君！しっかりして！』
「ぁ゙…ぅ゙ぁ゙アああアぁ゙ぁ゙ぁ゙！！！」
思いっきり暴れる彼の足が、メキメキと音を立てた。
まさか………足をちぎろうと………？
『くっ、』
すぐに異能を解除した。
関節を外す…？でも、そうしたら彼は絶対に暴れる。彼自身、虎の治癒力があることを無意識に自覚しているのだろう。両腕両脚をちぎっても止められない。
私の異能を使って止めるには、瀕死にさせるビジョンしか見えず、一瞬、ためらった。
その一瞬の間に、敦君がこちらへと最短距離で跳んできた。
『！』
「ﾁｯ……【シャンブルズ】！」
悠真が私と位置を入れ替えた。
振り下ろされた虎の爪を、武装色で硬化したメスで受け止める。
「グぁ゙アああアぅ゙ぅ゙ッ！！」
「うぐっ……」
手加減も何もなく、虎の力で思いきり押された腕が軋み、悠真は呻いた。
「しっかりしろ！虎屋！！」
先程落ちた瓦礫が浮き上がり、敦君を横から吹き飛ばした。列車に激突し、跳ね返された敦君の体が、駅の階段にめり込む。土煙が上がった。
『敦く、！』
「良く聞け千咲屋、アイツは正気を失ってる。それを俺達の異能で止める以上、怪我をさせることは厭えねぇ。……割り切れ。良いな？」
私の肩を強く掴みながら、鋭い眼光でこちらを見据える彼に息が詰まった。
最短距離で、敦君が吠えながら突進してくる。
私の前に出た悠真がその体を抑える。その額に汗が滲んでいた。
『……でも……』
「動け千咲屋！……ぐは、っ！！」
私に気を取られた悠真の腹に思いきり蹴りが入る。悠真は膝をついた。
「クソっ、」
『──トラ男君っ！！』
体が動くままに、彼を突き飛ばした。体制を崩した私に、鈍く光る虎の爪が───…………
「──止めるんだ敦君！！良く見ろ！！」
続く
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作者名：ミカン酢 | 作成日時：2022年10月22日 16時
