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____床に無造作に投げ出されたトランクが
タイガがこれからオブジェクトに向かうことを
告げている。
タイガ「悪いけど出て行ってもらえない？
見ての通り支度で忙しいんだよね」
……どうして、こっちを見ようとしないの
焦燥が私を突き動かし、気づけばタイガの腕を掴み
自分の方に無理やり顔を向けさせていた
もう一度重なった瞳が、驚きで揺れることはない
タイガ「A、俺は忙しいって言ったはずだよ？
君といつもみたいに遊んでる暇はないんだ」
「……ねえ、タイガ。本当に、これでいいの？」
タイガ「いいも何もこうする他ない。
ベルとして知識を詰め込んできたAなら
わかるはずでしょ」
「わかってる、っ、だけど_____」
タイガ「A、俺は王族だ。
こういう時に個人の感情なんて一切関係ないんだよ」
……っ、
____個人の感情なんて一切関係がない、
その言葉が胸の柔らかい部分に突き刺さる。
タイガが言ってることは、正しい。
だけど、私は今、そんな正しさがほしいわけじゃない
それに………
私は知っている、タイガが正しさというものさし
ではなく、人の感情というものを一番大切にしていることを
それなのに、自分の感情をないがしろに
していることがどうしようもなく悔しくて、哀しい。
……どうすれば、タイガの心に触れられる？
……どうすれば
次の言葉を探していると、
タイガが私に向かって笑った___それも完璧な笑顔で
タイガ「君はほんと底抜けに優しいよね
昨日俺があんな弱音を吐いたこともあって
心配してくれてるんでしょ？」
タイガ「でも、昨日のことなら忘れていい」
「……どういう、こと？」
タイガ「___昨日俺が言ったことは、全部嘘だ」
「……っ」
嘘なわけ、ないよ。だって………
______
タイガ「A、本当は本当は……っ」
タイガ「俺は、俺じゃない誰かになりたい……っ」
_______
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作者名：きょうもち | 作成日時：2020年12月15日 18時
