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「買わないの?」
その背中を追っかけて訊ねてみると、
「買わない。」
裕太くんは涼しい横顔をして答える。
「昔の裕太くんなら値札も見ずに買ってたよね。」
そんな嫌味を言ってみても、苦笑いでスルーされてしまうだけ。
いつも行くイタリアンで夕食を済ませた後、裕太くんは何故かおじいちゃんの会社のビルの屋上へ連れて行ってくれた。
「何でここ?」
12月の夜の屋上は、冷たい風が容赦なく吹き付けてくるし、とても居心地のいいものじゃなかった。
だけど裕太くんは平気な顔をして、柵から身を乗り出す。
寒がりな私は風が直に当たるのが嫌で、裕太くんの陰に隠れるようにして、斜め後ろから恐る恐る夜景を覗き込んでみた。
東京の夜景は、綺麗だけど優しくない。
見てると心細くなるし、早く家に帰りたくなる。
裕太くんの背中に立つと、そのまま両腕をその腰に巻き付けて抱きついた。
冷えた上着が頬に触れて余計に冷たいけど、なんだか夜景を見てると寂しくなったんだ。
「A、寒い?」
「寒くない。」
風の音で、こんな会話もかき消されてしまいそうだけど、私達は会話を続ける。
「帰りたい?」
「そうじゃないけど、なんか寂しい気持ちになった。」
ずっと、裕太くんと冬の夜景を見るのを楽しみにしてたんだけど。
冬の東京の夜景は、寂しさしか感じ取れなかった。
「ここの夜景は、なんか冷たい雰囲気だよね。」
裕太くんもそんなことを言い出す。
「商業的な明かりばかりっていうか…。
でも家の灯りが並ぶ夜景を見てても、帰りたくなって寂しく思うんじゃない?」
そうかもしれない。
多分ね、私のコンディションの問題なんだよ。
あと数ヶ月で私は社会に出るわけで。
しかも裕太くんと結婚して海外に住むとか。
あまりにも環境が変わりすぎるから、勝手に情緒不安定になってるだけなのかも。
「もう帰る?」
裕太くんがそう尋ねてくるけど、私は無言で首を降って拒否した。
寒いけど今はまだ、こうしていたいかな。
「Aの手、かなり冷たいけど?」
腰に回してる私の手に、裕太くんの指が触れる。
私は、その細くて綺麗な裕太くんの指がかなり好きだ。
その指に包まれているのも、とても心地いい。
不安な気持ちにはなるけど、裕太くんの肩越しにもっと見ておきたいんだ、東京の夜景を。
もうすぐ、見えなくなるだろうから。
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クッキーベル(プロフ) - 昨年のクリスマスからこの作品を今日までで一気読みさせていただきました!!すごく面白くて続きが気になります!!!更新大変だとは思いますが、これからも頑張ってください!!応援してます!! (2021年1月2日 19時) (レス) id: 456e770b4f (このIDを非表示/違反報告)
えり(プロフ) - 楽しみに更新待っていますね。^_^ (2020年7月28日 0時) (レス) id: 8591dd4797 (このIDを非表示/違反報告)
bakutan(プロフ) - こんばんは!この物語とても好きです!ゆっくりでも良いので更新再開してください!!楽しみに待ってます! (2020年6月3日 19時) (レス) id: dde750c273 (このIDを非表示/違反報告)
わかめ(プロフ) - えりさん» こちらも大変お返事が遅くなりまして!こちらも読んでくださってるとは、ありがとうございます。こちらは更にのんびり更新でやってますが、どうぞよろしくお願いしますm(__)m (2020年3月2日 1時) (レス) id: 9f29bca2de (このIDを非表示/違反報告)
えり(プロフ) - こんばんは!こちらも楽しみに読んでいます。めちゃくちゃ素の玉ちゃんが出てる感じでリアル感もあり楽しみです!ゆっくりご都合良い時に更新してくださいね^_^楽しみに待ってます。 (2020年1月25日 22時) (レス) id: 8591dd4797 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:わかめ | 作成日時:2019年10月6日 21時