ペパーミントブルーソルベ

14 ページ14

先生は意外に強引に、私の手首を握りしめたまま、元来た道を引き返し始めた。

「痛いって！」

そう言ってんのに、先生は唇を真一文字に結んだまま、まっすぐと私の手を引いて夜の街を逆行していく。

いや、先生の言うことはよくわかる。

私のやろうとしていることは、正しくはない。

だけど我が家の大黒柱は私なわけで。

私が頑張らないと、我が家は崩壊してしまうわけで。

だけど先生は無理矢理に、私を裏通りの小さな公園へと連れ込んだ。







「ちょっと座って」

強引に私をベンチに座らせると、先生はまるで逃がさないとでも言わんばかりに前に立ちはだかる。

「どういうこと？
お金が必要ってこと？」

冷静そうに見えて、その声はかなり怒ってる様子で、全身に恐ろしく響くような低い声だった。

「お金ないわけ？
それって、瑠宇が理由？」

その声があまりに怖くて、私は顔を伏せて、先生の足元ばかりを見ていた。

あ、今日はビーサンだ。

「あれから、お姉さんから連絡はあった？」

先生の口調が少しだけ緩くなったから、その隙にこっそり顔を上げる。






「…あった、お姉ちゃんからメール
でも返信できなかった、フリーメールで」

「何て言ってた？」

「もう帰らないって」

先生は返事代わりにため息をつく。

「だからガールズバーで働くって？」

「…今はいいけど、そのうちお金が必要になるかなって
もう姉は帰って来ないみたいだし」

「だからって、安直過ぎない？
昼間も働いてんのに夜もとか、無理だって」

だんだんと先生の口調が、切なげになっていく。

だから言ったじゃん。

教え子の家庭に肩入れするなって。

先生だって、どうしようも出来ないでしょ。







「俺がなんとかする」

なのに先生は、妙に使命感に燃えた目をして、そんなことを言い出した。

「瑠宇を引き取ることについて、役所に届出とか出した？」

「届出はしてないけど」

「きちんと届出をしたら、児童手当とかもらえるはずだから」

児童手当とか、そういう手があったか。

ちっとも思いつかなかった。

「教え子の扶養の問題は、担任の俺が関与してもいいと思う！」

ずいぶんとはっきりそう言いきった先生は、隣に座って私の手を両手でぎゅっと握りしめてくる。

「大丈夫だから
俺が助けるから」

だから、そんな目で見ないでよ。

もうこれ以上、先生のことを好きになりたくないんだって。

15→←13

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す