花朝月夕

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「北山さんは何で恋愛しないの？
アイドルだから？」

とりあえず、その辺りから突いてみることにする。

彼はほんの少し間を開けて、

『全くしないってわけじゃないけど、極力しないようにしてる』

と、意外に正直な答えが返ってきた。

『もし女の子と付き合って写真でも撮られたら、いろんな人に迷惑をかけちゃうことになるから
それに、俺のことを好きでいてくれる子を傷つけることになるじゃん』

なんか優等生な答え。

でもきっと、これは彼の本心なんだろうと思う。

『それと、付き合いたいって思えるような子に、まだ出会えてないのかもね』

溜息混じりにそう答えては、

『じゃあ、Aちゃんは？
何で恋愛しないわけ？』

とか、また切り返してくる。









「私のことはどうでもいいの
今は北山さんの話じゃん」

そう返したら、電話の向こうで北山さんが小さく笑う声が聞こえてきて、

胸がえぐれそうに苦しくなる。

その笑い声を、私だけに聞かせてくれないかな。

そして一番近い距離で、彼がリラックスして笑ってる姿をずっと見ていたい。

『じゃあ、次の質問は？』

次の質問はもう決まってる。

私が二番目に聞きたかったことだ。

「私が北山さんの正体を知ってたこと、どう思った？」

軽蔑した？

信用できない女だって思った？

なのに何で私を、こんな風にして家まで送ってくれてるの？









『正直、少しだけ疑ってたから
本当はAちゃんは、俺の正体を知ってんじゃねえかなって』

…やっぱり。

意外と慎重な彼の性格上、100％信じてるとは思ってはなかったけど。

『だから、やっぱりなって感じ』

「怒ってないの？」

『怒ってない』

「嘘ついてたのに？」

『…まあ、俺も嘘ついてたわけだしね、Aちゃんに
お互い様なんじゃない？』

でもまだ、私は彼に隠し事をしてるわけで。

でももしかしたら彼も、私に壮大な隠し事をしてるかもしれない。









スマホを持つ手を震わせながら、私はとうとう一番聞きたかった質問をしてみた。

「もし私が北山さんのファンだったらどうする？」

彼はやっぱり少しの間のあと、

『Aちゃんが？』

とかって、ふざけたように聞き返してくる。

「ファンなのに一般人を装って、北山さんに会いたいがためにホームパーティーに潜入してたら？」

決死の覚悟でそう聞いたのに、

『ありえないでしょ
Aちゃんがそんな器用なことできるわけないじゃん』

って、彼はいとも簡単に笑い飛ばした。

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