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「出ないの？」

「電話？
別にいい。」

「優さんでしょ？」

「内容はわかってるからねー。」

先生は緩い感じでそう言うと、まるで宥めるように私の背中をポンポンと叩いた。

「いつまでもこうしてたら、出かけられないじゃん。
もう行く？」

「行くけど。
話そらしてない？」

「してないって。
後で話すわ、電話のこと。
マンションの前に車、路駐しちゃってるから。
早く行こう。」









車に乗っても私は、さっきの話を蒸し返す。

だって気になるじゃん。

元カノの電話を無視とかさ。

「で？さっきの話は？」

「優のこと？」

「…言いたくないならいいけど。」

それは、一応言っとく。

先生のこと、いろいろ知りたいのは確かだけど。

言いたくないことを無理に聞き出すほど、私も無邪気じゃない。









「店に来いってうるさいから。
それにあいつ、話が長いんだって。」

あいつって…。

元カノじゃん。

「あのさ…、元カノにかまってるほど俺、暇じゃないんだよね。
仕事は忙しいし。
面倒をかける生徒はいるし。
彼女は手がかかるしね。」

「何それ。
私のせい？」

「そう、Aのせい。
それとも俺が頻繁に元カノと連絡を取るような男だった方がいい？」

それは…、嫌だけど。

何で避けるのか、ハッキリとした理由が欲しいんだけど、私は。

こんな風に私のせいにされちゃうのは、なんか納得いかないっていうか。









「納得いかないって顔してんじゃん。」

「うん、納得いかない。
それが先生の真意だとは思えないから。」

「…ほんと、お前は小難しいっていうか。」

先生は苦笑いして、運転席から助手席に向かって手を伸ばした。

てっきりまた、頭を撫でられるんだと思ってた。

だけどその手は私の首に添えられて、

ふわっと引き寄せられて、一瞬だけ唇が触れた。

ちょうど信号待ちで車が止まった瞬間だったし、予想もつかない行動だったから、

何故か必要以上に私は緊張してしまった。

ただでさえ、キスの後は悪態もつけなくなるのに。

何でこんな不意打ちでキスとかしてくるかな…。









「Aはキスしたらおとなしくなるな。」

先生はいつもそう言って笑うけど、先生のキスは予告なしが多いから困る。

…っていうか、私の経験値が少なすぎて、キスのタイミングが読めてないのかもしれないけど。

私がキスしようとすると、逆襲してくるし。

私と先生のキスしたいタイミングは、違うのかな。

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